積水化学工業の沼田雅史R&Dセンターモノづくり革新センター部長
積水化学工業の沼田雅史R&Dセンターモノづくり革新センター部長

 積水化学工業は環境会計手法の1つである「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」を適用し、廃棄物コストを削減する成果を上げている。同社は2005年度から全社規模でMFCAを導入。2006~2008年度に累計50億円の廃棄物コストを削減するという目標を掲げていたが、2007年度までに53億8000万円を削減、1年前倒しで目標を達成した。2007年度の連結ベースの営業利益は430億円。年間数十億円のコスト削減効果が大きなものであることが分かる。

 MFCAは製品の製造工程で発生する廃棄物に注目する点が特徴の会計手法。原材料の投入から製品の完成までの一連のフローで発生する廃棄物を“負の製品”とみなし、廃棄処理にかかる費用を「原価」として算出する。これによって顕在化させた廃棄物コストを、現場の改善活動によって削減することを狙う。

 加工メーカーを中心に、企業のMFCAに対する注目度は急速に高まっている。経済産業省が2007年11月にMFCAの国際標準の策定を国際標準化機構(ISO)に提案したことなどが背景にある。ただし、現状では一部の製造ラインに試験導入した程度の企業がほとんど。積水化学工業のように、全社規模で適用して年間数十億円のコストを削減した事例は珍しい。

端材ロスが250トンから10トンに削減

 同社はMFCAを適用するに当たり、廃棄物コストの算出に必要となる製造工程上のデータの有無を各地の工場の現場担当者と約半年間かけて確認した。既にデータがあればそのまま利用し、ないものは新たに収集した。活動を推進する沼田雅史R&Dセンターモノづくり革新センター部長は「廃棄物を外部に出さないようにするゼロエミッョン活動に1998年から取り組んできたこともあって、必要なデータはほぼそろっていた」と説明する。こうして収集したデータから、廃棄物のコストを算出できるように利用中の原価計算ソフトを改修した。

 こうして収集したデータから、各ラインの工程別の廃棄物コストを算出した。その値に基づいて、廃棄物コストが大きな工程で現場が改善活動に励んだ。例えば、ある工場のラインでは原材料を削る作業で発生する切粉ロスが2005年度の600トンから2007年度に290トンへと半減。さらに加工方法を改善することなどによって、端材ロスも同期間で250トンから10トンに減らしたという。このような現場の改善活動の積み重ねから、累計50億円以上の削減効果が生まれた。

 目標を前倒しで達成したものの、廃棄物コストの削減活動には今後も引き続き取り組んでいく。さらに今後は「製造部門だけでなく、例えば開発・設計部門でも廃棄物が発生しにくい設計を検討するなど、文字通り全社体制で活動していきたい」と沼田部長は話す。環境に配慮した設計や製造現場の改善活動が、結果的に物作りの競争力向上にもつながると考えている。