廃車から再生できる部品を取り出し、海外へ輸出する事業を確立した会宝産業。品質保証の信頼性の高さで一般的な解体業者とは一線を画す。具体的にはITを活用し、中古部品の履歴を追える仕組みを構築。1点ずつ単品管理することで品質を保証できるようにした。従来は不明朗だった値付けを透明化し、解体方法の標準化にも取り組む。

 石川県金沢市にある会宝産業の工場は、一般的な工場とは根本的に異なる点がある。壁に「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」と書かれた標語が並ぶなど、工場内の風景こそそれほど変わらないが、製品を作るのではなく、壊すことで付加価値を生み出しているのだ。廃車となった自動車を解体してエンジンなどニーズのある部品を取り出し、販売している。

 自動車を解体する割には、工場内の様子は整然としている。部品を取り出す廃車はまず、フォークリフトを使ってセルと呼ぶ一角に運ばれる。ここで作業員がエンジンなど再利用可能な部品を取り出す。目視検査をしたり、実際に部品が動くかどうかといった確認作業をしたりした後、もう一度商品として再生する。倉庫では約2000基ものエンジンが出荷を待っている。

 会宝産業がほかの中古車部品業者と異なるのは、海外への販売に重きを置くことだ。同業他社は国内向けか、特定の地域に限って輸出している。国内市場と違い、海外を相手にすると地域事情によって異なる相場価格がつかみづらいからだ。一方で会宝産業は取引地域が多く、「58カ国と取引しているのはうちくらいだろう」と近藤典彦社長は胸を張る。取引する地域が多いため、ニーズは幅広い。他社はあまり手を出さないが廃車として流通量の多い10年以上経過した車両の部品でも、売れるチャネルがあるのだ。海外への部品販売で売り上げの6割を稼ぎ出す。

●会宝産業の会社概要
●会宝産業の会社概要

品質保証システム確立で透明性を確保

 同社は経験とノウハウを生かして海外向けの部品に品質を保証する仕組みを作ることを目指している。これまでは解体業者に海外からバイヤーが訪れて、欲しい部品を見つけてはその都度、価格交渉するのが一般的で、バイヤーは自分の目利きだけを頼りに、良い部品を探すしかなかった。

 バイヤーに品質を保証するため、近藤社長は大きく2つのことに取り組んできた。部品の値付けの透明化と車両解体方法の標準化だ。「環境問題への高まりでリサイクルビジネスは注目されているが、不透明な取引形態を改めなければ消費者から認めてもらえない」と強調する。標準化した解体方法で部品を安全に取り出し、一定の基準で品質や状態を評価して価格を決め、市場へ流通させる─。近藤社長が目指す姿だ。

 会宝産業は、年間約400万台もの廃車が出る日本で、自動車解体業を正当な収益を上げられる事業にしようと取り組んできた。この考え方を自社で実践するために導入したのが、「KRA(カイホウ・リサイクル・アライアンス)システム」だ。車体まで履歴をさかのぼれるようにすることで、「高品質であるから高価」といった価格の透明性を確保できるのだ。価格設定の理由を説明できるように、仕入れから部品を取り出し、出荷するまでの全工程で部品を1点ずつ単品管理する。

 具体的な情報の流れはこうだ。車両を仕入れてくると、まず車種やエンジン形式といった基礎情報を登録する。廃車を供給してもらう全国各地の協力会社10 社も、KRAシステムを利用して情報を入力している。工場内で解体を担当する作業者はKRAシステム内にある作業指示書から、取り出すべき部品を確認する。取り出した部品は、作業者が状態を確認・検査して5段階で評価し、KRAシステムに登録する。部品には1点ずつバーコードを取りつけて管理する。

●廃車から部品を取り出し商品化するまでの作業と情報の流れ
●廃車から部品を取り出し商品化するまでの作業と情報の流れ
写真撮影:吉尾 大輔
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 情報を一気通貫で管理することで、社内でも価格の妥当性を検証できるようになった。KRAシステムには過去の取引実績が蓄積されている。車体番号などを入力すれば過去の同一車種の同じ部品の取引実績が検索できる。以前は値付けを勘と経験に頼っていたため、担当者によってバラツキが生じていたが、KRAシステムを活用すれば需給に見合った値付けや仕入れができる。

 「過去の取引実績の蓄積によって国や地域ごとの需要動向をつかめるため、『もう少し高くても売れたのではないか』といった議論ができる」。システム業務室長の桜井茂宏取締役はこう語る。素材価格の高騰により、原材料である廃車がタダ同然では入手できなくなってきた。KRAシステムは厳格に収益を管理することにも寄与している。

 KRAシステムによって、販売方法も幅が広がった。ただ顧客からの注文を待つだけでなく、提案営業が出来るようになったのだ。

 会宝産業のホームページ上ではバイヤーが在庫を検索できる。バイヤーはこれを見て、ある程度の当たりをつけて会宝産業へ調達に訪れる。部品を効率的に輸送するには、20フィートのコンテナを満載にしなければならない。金額にして200万~400万円分、エンジンで約70台分となる。バイヤーの希望は、トヨタ自動車のワゴン車「ハイエース」といった人気車種に集中する。「希望商品があることがバイヤーから選ばれる第一条件ではあるが、供給量には限界があり、それだけでは満載にできない」(桜井取締役)。およそ6割は希望する部品で埋められるが、そのままではバイヤーは残りをほかの解体業者から調達してしまう。

 実は、ここからが会宝産業の営業担当者にとって腕の見せどころとなる。KRAシステムを活用することで、今後売れそうな別の部品を提案するのだ。過去の地域別の出荷数などを見ながら今後の需要を予測し、バイヤーに提案している。

解体方法を標準化し他社ともノウハウ共有

 もう1つ取り組んできたことが、解体方法の標準化だ。解体作業には危険が伴う。方法を間違えれば事故につながったり、環境に悪影響を及ぼしたりしかねない。そこで解体手順を標準化して作業員に徹底している。例えば、解体する前にオイルを抜くといった前処理工程を設けるなどして、液漏れによる事故を未然に防ぐ。部品を取り出した後は、アルミなどの金属や電子部品を細かく分別するなど、リサイクル対応にも取り組んでいる。

仕入れてきた廃車から部品を取り出して再利用する(写真左)。出荷を待つ主力商品の中古エンジン(写真右上)
仕入れてきた廃車から部品を取り出して再利用する(写真左)。出荷を待つ主力商品の中古エンジン(写真右上)
写真撮影:吉尾 大輔

 標準化した解体方法は、研修を通じて技能伝承している。標準化することで解体に要する作業時間を計算できるようになり、「生産計画」が立案可能になった。

 例えば、エンジンであれば40分といった具合だ。「適正な市場を構築するためには、こうしたノウハウを他社と共有する必要がある」と近藤社長は言う。同業者とともに「RUMアライアンス」という特定非営利活動法人を設置して、2007年4月に研修施設を開設した。解体手法を水平展開し、同じ基準で部品を評価する仕組みを共有することで、市場の拡大を目指している。

脱・解体業を目指す
近藤 典彦 社長
近藤 典彦 社長
こんどう のりひこ氏●1947年石川県生まれ。実践商業高等学校卒業。家業である近藤糀店を経て、69年近藤自動車商会を創業。92年に会宝産業に社名変更。
写真撮影:吉尾 大輔

 解体業のマイナスイメージを払しょくして業界全体が認められるようにしたい。トヨタ自動車を代表とする日本の自動車産業は世界的に評価されている。新車販売を動脈と例えれば、我々の産業は静脈だ。廃車は、ゴミととらえられてしまうが、うまく活用すれば有益な資源になる。環境問題が叫ばれるなか、資源は循環させなければならない。静脈産業を築くために、業界全体で協力し合っていく。価格の基準づくりを目指したKRAシステムは改革の第一歩だ。

 業界全体の底上げで重要なのは、解体に関するノウハウの共有である。自動車メーカーには組み立てマニュアルはあっても、解体するための手順書なんてない。これは我々のような中古部品販売業者が長年培ってきたノウハウである。一定の品質水準に達した部品だけを市場で流通させるにはノウハウ共有が不可欠だ。解体作業のマニュアル化に取り組み、同業者と連携して「自動車リサイクル技能者」制度を作った。

 研修施設も設け、海外の取引先からも受け入れている。私自身も教べんを取って、授業を行っている。中国などから、のべ16人の研修生を受け入れてきた。 2月には各国の大使などを招いて2回目となる「国際リサイクル会議」を開いた。こうした取り組みを通じて、意識改革や業界全体の底上げを図る。