アルコール度数が8%と従来品よりも高い、キリンビールのチューハイ、氷結レモン[ストロング]
アルコール度数が8%と従来品よりも高い、キリンビールのチューハイ、氷結レモン[ストロング]

 キリンビールが2008年5月14日に発売した、従来品よりもアルコール度数が高い缶チューハイ、氷結レモン[ストロング]が売れている。発売から3週間で出荷が1000万本を突破。2008年末までの販売予定数を125万ケース(250ml換算)に設定していたが、発売から1カ月で既に89万ケースを売り上げ、目標の70%を達成した。氷結のレモンフレーバー全体で見ても、氷結ストロングの発売後に販売数が約40%も増加しており、その傾向は現在も続いている。これにはキリン内部だけでなく、流通関係者からも驚きの声が上がっている。

 若者の飲酒離れに呼応するかのように、近年はお酒のマイルド化と健康志向を前面に打ち出した軽いお酒やカロリーオフのお酒ばかりがもてはやされる傾向が強い。そんな中でキリンは今回、従来の氷結レモンよりもあえてアルコール度数を1ポイント上げた8%の氷結ストロングの発売に踏み切り、強いお酒であることを明確に押し出したパッケージデザインの新商品で結果を残したことになる。

 このご時世に、2001年の発売以来、チューハイの定番に育った戦略商品のアルコール度数を意図的に上げるという「無謀」にも思えた新商品開発には、一部の社員や流通関係者から「リスクが大き過ぎるのではないか。中身をいじる必要はない」と反対の声が上がっていたほどだ。しかし、キリンの商品開発チームは「必ず需要はある」と説得して回り、発売に漕ぎ着けた経緯がある。

 ちなみにアルコール度数を上げると、それだけキリンの製造原価は高くなる。酔い加減は人それぞれだが、飲んだ後のアルコール臭さも多少強くなるという違いがある。

予想外にも20代の若者が一番多く購入

 もっとも、氷結ストロングのヒットは商品開発チームの事前の予測をはるかに超えたところで起こっていた。その点が非常におもしろい。キリンの大野知法・営業本部マーケティング部商品開発研究所新商品開発グループ主査は「いい意味での裏切りがあって、これほどヒットしている」と裏事情を明かす。

 実は氷結ストロングは、30代後半から40代にかけてのお酒に強く、特に焼酎を愛飲するヘビーユーザー向けに開発したチューハイの新商品だった。アルコール度数を8%まで上げることで、「これぐらい度数が高いのなら、(軽いお酒というイメージが強い)チューハイをたまには飲んでみてもいい」と言わしめるのが目的だった。

 ところがフタを開けてみると、購入者は想定していた年代よりも若い20代が多く、彼らが真っ先に氷結ストロングに飛びついた。これは、発売後のコンビニエンスストアでの販売実績から明らかになった結果である。予想外に20代を取り込めたことが、ここまで大きなヒットにつながっている。

 興味深い調査結果がある。キリンは消費者に対し、「どんな時に氷結ストロングを飲みたいですか」というアンケートを実施した。すると20代の若者だけは「ストレスがたまっている時」「酔いたい時」という回答が突出していた。仕事やプライベートなど様々な理由から、今時の若者は想像以上にストレスをためこんでいるのかもしれない。

 しかし、それがそのままアルコール度数を高めたチューハイの購入につながるとは、キリンも想定していなかった。若者のお酒離れという先入観があるし、仮にストレスがたまっていたとしても、若者はスポーツなどほかの手段でストレスを発散しようとするのではないかという議論がキリン社内ではあった。

 だが実際には、少し強めのお酒を飲んでストレスを発散したいというニーズが、今の若者にも確実にあったようだ。とはいえ、会社帰りに飲み屋に立ち寄るのではなく、「自宅への帰り道にあるコンビニで目に付いた氷結ストロングのパッケージに引かれ、自然に力強いパッケージの商品に手が伸びた若者が多かったのかもしれない」(大野主査)。

 若者が買っているという証拠は、氷結ストロングの購入時間帯にも表れている。従来、氷結の販売のピークは中高年のサラリーマンが会社帰りにコンビニに立ち寄る午後8時だったが、氷結ストロングはピーク時間が午後8時から同11時まで断続的に続いている。毎日帰宅時間が遅い20代の若手サラリーマンが、疲れながらも帰宅前にコンビニに立ち寄って、少し強いお酒を買って帰っているのではないかという購買行動の推測ができるという。