コンピュータ/ネットワーク・システムの保守運用を専業にするMKIテクノロジーズは,2007年9月から試験的に10台のWindows Mobile 6.0搭載スマートフォン「Advanced/W-ZERO3[es]」を導入,業務の効率化を模索している。スマートフォンを持つことで保守作業員は,出先から社内情報にアクセスできるようになり,その結果,顧客へのレスポンス向上を図れることが明らかになった。

出先から社内LANへの接続が必須

 同社は以前,保守作業のために顧客企業を訪問する社員にノート・パソコンを貸与していた。保守作業員はPHSや携帯電話のデータ通信カードを使ってインターネットにアクセスし,IPsecによるリモート・アクセスで社内LANに接続。メールやスケジュール,顧客情報などを閲覧していた。

写真1●MKIテクノロジーズ プロダクトサポート1部の田中伸行統括リーダー(左),市野貴一部長(中央),福島正弘チーフエンジニア(右)
写真1●MKIテクノロジーズ プロダクトサポート1部の田中伸行統括リーダー(左),市野貴一部長(中央),福島正弘チーフエンジニア(右)

 しかし,最近の情報統制強化を受けて,「顧客企業の建物の中にノート・パソコンを持ち込めなくなってきた」(プロダクトサポート統括の坂東政博取締役執行役員)。保守作業員は社内情報にアクセスできなければ業務効率が著しく落ちる。顧客システムの保守の際,MKIテクノロジーズの社内LANにあるWeb サーバーにアクセスして,顧客のシステム構成やこれまでの処置/ノウハウを集めたデータを参照してきたからだ。また,顧客はメールで問題などを伝えることが多いため,「会社の席でしかメールが見れないのは業務効率が悪い」(プロダクトサポート1部の田中伸行統括リーダー,写真1左)という状況もあった。

社内システムとの相性で選択

 そこで,浮上したのがWindows Mobile搭載スマートフォン(以下Windows Mobile端末)の導入である。MKIテクノロジーズは以前からマイクロソフト製品で社内システムを構築してきたため,Windows Mobileとはシステムの“相性”がよかった。具体的には,サーバーとしてExchange,LCS(Live Communication Server),ISA(Internet Security and Acceleration)Serverを配備。パソコン側には,OutlookとOffice Communicatorを導入してきた。ExchangeとOutlookの組み合わせによってメールとスケジュールを共有,LCSとOffice Communicatorでプレゼンス確認および電話連携,ISA Serverでリモート・アクセス環境を提供してきた(図1)。

図1●MKIテクノロジーズのシステム構成
図1●MKIテクノロジーズのシステム構成
Windows Mobile端末は,IPsec経由で社内LANにアクセスする。ユーザーは電子メール/スケジュールの閲覧/編集,プレゼンスの確認,顧客情報Webサーバーの閲覧などができる。
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 Windows Mobile端末としてウィルコムのスマートフォンを選んだのは,Windows Mobile 6.0対応と,定額通信料金の安さが決め手だった。端末には社内のパソコンとほぼ同じ環境を整えた。Outlookのモバイル版「Outlook Mobile」とExchangeを連携し,プレゼンスの確認が可能な「Office Communicatior Mobile」をLCSと連動させた(写真2)。リモート・アクセスにはISA ServerへのIPsec接続を使った。

写真2●Windows Mobile端末から閲覧できる情報の例
写真2●Windows Mobile端末から閲覧できる情報の例
写真左は,リモートデスクトップを使ってWindows Mobile端末から社内情報を閲覧している画面。

 必要なインフラがそろっていたため,「Windows Mobile端末は,トラブルもなくあっさりつながった」(プロダクトサポート1部の市野貴一部長)というほど導入は簡単だった。

 ただし,社内の顧客情報Webサーバーにアクセスする部分では工夫が必要だった。Windows Mobile 6.0に付属するInternet Explorer Mobileで接続してみたが,「社内のWebサーバーのコンテンツがパソコン用に作られていたため,うまく閲覧できなかった」(市野部長)。モバイル用を別途用意するのはコストがかかる。そこで,社内LANにあるWindows Server 2003にWindows Mobile端末から「リモートデスクトップ」でアクセスする方法を採用した。Windows Server 2003のWebブラウザ画面をネットワーク経由で閲覧する。最大204kビット/秒というPHSの伝送速度で画面転送がスムーズにできるかどうかが気になったが,「表示色数を減らす設定にすれば問題ない」(田中統括リーダー)という。

顧客対応が改善,プレゼンスも活用

 Windows Mobile端末の導入によって,ノート・パソコン以上にモバイルで活用する機会が増えた。保守作業の際,社員は顧客企業に公共交通機関で行く。ノート・パソコンと違いWindows Mobile端末なら立った姿勢でも,情報にアクセスできる。「移動時間に顧客からのメールを見たり,顧客データベースを参照して先方のシステムを頭に入れておくことで,打ち合わせがスムーズになった」(田中統括リーダー)。メールへの返信も早くなり,以前より顧客に安心感を与えられるという。出先から社内にいる社員のプレゼンスを確認できるため,「話したい社員がオフィスにいるタイミングを見つけて電話をかけられる」(市野部長)という効用もあった。

全社採用にはまだ踏み切れず

 同社は情報統制と自社システムとの親和性の観点から,Windows Mobile端末の全社導入を検討中。しかし,現時点で時期は未定だ。

 ためらう理由は二つある。一つは端末の完成度。「現在の端末は電話機としてもデータ端末としても中途半端に感じる。将来もっと使い勝手の良い端末の登場が予想されるので大量導入に踏み切れない」(田中統括リーダー)。

 もう一つはセキュリティ。Windows Mobile 6.0には端末に内蔵する不揮発性メモリーの暗号化機能がない。端末が分解されメモリーを調べられれば,情報が漏えいする危険がある。現在はリモートからのデータ消去と,端末ログイン時に複数回パスワードを間違うとデータを消去する機能で情報漏えいに対処している。



ここがポイント

目的:モバイル利用のノート・パソコンの代替

システム:Windows Mobile 6.0

導入時期:2007年9月

効果:顧客へのレスポンス向上, 保守作業員の効率化

●会社プロフィール
本社: 東京都中野区
設立: 1987年7月1日
売上高: 93.1億円(2008年3月期)
従業員数: 465人(2008年3月末)

●ネットワーク・プロフィール
マイクロソフトのサーバー製品群を社内に配置し,ユニファイド・コミュニケーション環境を構築している。