写真1●左から滋賀医科大学医学部付属病院 医療情報部の杉本喜久准教授と永田啓教授
写真1●左から滋賀医科大学医学部付属病院 医療情報部の杉本喜久准教授と永田啓教授

 滋賀医科大学医学部付属病院は2007年10月,新病棟(D病棟)の完成を機にLANを拡張,既存のネットワーク機器を増強した。一般にこうしたLAN の拡張作業は,ネットワークを止めて作業することが多いが,同病院は既存のネットワーク機器を冗長化していた。そのため,「システムをまったく止めることなく移行でき,業務にも支障が出なかった」(杉本喜久医療情報部准教授,写真1左)という。


ポート数不足で機器を入れ替え

 同病院は医療サービスの充実を目的として,1987年から院内LANを構築。検査や会計の伝票をオンライン化するオーダリング・システムを作り上げていた。1998年には院内LANをATM(非同期転送モード)に切り替えて,その後は電子カルテの運用を開始した。

 2004年に今回のLAN拡張のベースとなったカナダのノーテルのレイヤー2/3スイッチ「Nortel Ethernet Routing Switch(ERS)8600」を中核としたギガビット・イーサネット網を構築。ここ数年,同病院は問題なく運用してきたが2007年後半,帯域を増強する必要に迫られた。同病院の敷地内に新たなD病棟が完成したためだ。

 ただし,新病棟にLANを敷設するには,従来のシステムではポート数が足りなかった。そのため,4台のうち2台のシャーシを6スロットから,10スロットへと大型化。従来使っていたCPUモジュールを使い続けながら,新たにギガビット・イーサネットのモジュールを追加した。シャーシ交換の実作業は富士ゼロックス京都に委託した。

 同病院では2台1組のERS8600を2セット並行に配置して冗長性を持たせていた。増強時にはまずは1組目の1台のシャーシを入れ替えた。その作業の間はもう一方のスイッチが稼働し続ける。片方が終われば,もう一方を入れ替えるという作業を1週間で進めた。

 同病院が継続してネットワークを強化し続ける理由は大きく二つある。(1)データ量の増大,(2)止まらないネットワークの必要性,である。

 病院内のシステムで取り扱うデータ量は年々増大している。同病院の医師が診療時に参照する項目は,電子カルテのテキスト・データだけではない。超音波/CTスキャン/MRIなどの検査画像を端末上で閲覧している。

 特に入院患者は検査の数が多くなる傾向がある。そのため複数の検査を重ねると,画像データの容量はギガバイト単位にもなる。同病院では,入院/外来を合わせて1日に約1500人の患者が診察を受ける。こうした状況ではLANのスループットが診察時間に直接影響を与える。「かなりのスピードで,データが“ 飛んで”来ないと医師は診察にならない。表示に5~10秒かかるようでは,情報部に問い合わせが殺到する。医師の要求は厳しい」(永田啓医療情報部教授,写真1右)。

写真2●端末上で患者情報を表示
写真2●端末上で患者情報を表示
診療時には,端末の画面上で医師がカルテを参照する。各種の情報表示ツールはJavaで開発している。

ネットワークはライフライン

 もう一つの理由である「止まらないネットワーク」も人命を預かる病院には絶対不可欠。「ネットワークが止まったら,病院の機能が停止する。まさに,ネットワーク自体が病院のライフラインとなっている」(杉本准教授)からだ。

 病院内では,各部署が扱う様々なデータが連携している。例えば,医師が薬の処方を出したら,薬剤部へ処方のデータを流す。このデータを基に患者に薬を出し,保険請求のデータベースに記録するといった具合だ。システム停止などの原因で「薬を患者に出しているのに,システム上では出していないといったデータの不整合が起きることは許されない」(永田教授)。

 こうした高速で止まらないネットワークを実現するには,ERS8600が備える独自の冗長化機能「SMLT(split multi-link trunking)」が適していたという。SMLT機能を持つ複数のスイッチを連係させると,帯域を増やせるほか,障害が発生したときにスイッチを切り替えて,接続性を維持できる。切り替え時間は1秒以下だ。

 冗長性を持たせるには複数の経路を用意したうえで,ループを防ぐ「スパニング・ツリー」を導入する方法が一般的だが,「その場合は冗長経路が(通常時は)使われない。SMLTでは冗長性を持たせて帯域も2倍になる。投資の成果が得られる」(杉本准教授)。

外部監視用のサブネットを構築

 24時間止まらない病院システムの運営には,監視体制の強化も重要だ。ただ,患者のデータを扱う病院内ネットワークに外部から接続することは,一切許可されていない。そこで,病院とは別のサブネットとなるLANを構築し,このネットワークにスイッチの制御端子を接続した。こうすることで運用委託先である富士ゼロックス京都は,病院のネットワークに入ることなく外部から稼働状態を確認できる。

 現状の課題はWindows端末が院内に不足していること。これを解消するため,同病院はLinux端末の導入を検討している。従来,医療情報の表示システムはWindows用アプリケーションだったが,現在はJavaで開発しており,Webブラウザで表示できる。「オープンソースのLinuxやオフィスソフトに切り替えれば(ソフトウエアのラインセンスが不要となるため),端末は大幅に増やせる」(杉本准教授)。コストを重視しながら,医療システムの拡充を継続する計画だ。

図1●滋賀医科大学医学部付属病院のネットワーク構成
図1●滋賀医科大学医学部付属病院のネットワーク構成
新設したD病棟への帯域を増やすため,レイヤー2/3スイッチのシャーシを交換した。ノーテルのERS8600シリーズを4台構成で使っており,そのうち2台のシャーシを従来の6スロットから10スロットへと大型化した。
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ここがポイント

目的:新病棟の稼働を契機とした帯域の増強

システム:ノーテルのレイヤー2/3スイッチ

導入時期:2007年10月から

効果:冗長化されたシステム構成により,業務を止めることなく交換作業を進めた

●病院プロフィール
所在地: 滋賀県大津市
病床数: 608床
職員数: 約650人(2007年5月現在,事務職員は除く)

●ネットワーク・プロフィール
4台のレイヤー2/3スイッチをノーテルのSMLT技術で冗長化。病棟の各階に置かれたレイヤー2スイッチとギガビット・イーサネットで結ぶ。