quanpの画面。画像や文書の中身が視覚的に分かる
写真1●quanpの画面
画像や文書の中身が視覚的に分かる
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 リコーが2008年5月に始めたインターネット上でデータを保管・共有できるオンライン・ストレージ・サービス「quanp(クオンプ)」が順調に利用を伸ばしている(関連記事)。

 この事業では最後発ながら、ネット上に保管したデータをサムネール状に表示するなど(写真1)、使い勝手の良い高度な機能が受け入れられている。現在は日本国内向けサービスだが、海外展開を予定しており、2011年3月までに国内外で700万ユーザーの獲得を目指す。

 quanpは法人向け事業のイメージが強いリコーが一般消費者向け新規事業を立ち上げたいという悲願から生まれたサービスだ。プロジェクトは約2年前の2006年4月に、リコーの中核事業である法人向けデジタル複合機を扱うMFP事業本部の近藤史朗本部長(その後、代表取締役社長執行役員に就任)の肝いりで発足した。

 MFP事業本部CPS-PTの生方秀直リーダーは「リコーの消費者向け事業で一定規模まで育ったのはデジタルカメラぐらい。プロジェクト発足当初はハードウエア、ソフトウエア両面で新規事業を考え、一般消費者向け低価格プリンター開発なども検討した」と打ち明ける。

Rubyを採用、“素人集団”がウェブサービスに挑む

quanp事業立ち上げを担当したリコーMFP事業本部CPS-PTの生方秀直リーダー
写真2●生方 秀直氏
quanp事業立ち上げを担当したリコーMFP事業本部CPS-PTのリーダー

 その後、本業とは異なる分野で、しかも「知識創造を簡単に」という「リコーバリュー」に合致する事業を模索した結果、オンライン・ストレージに落ち着いたという。もっとも、この市場では「Yahoo!」やマイクロソフトなどの大手からベンチャー企業まで多数の企業が有料・無料のサービスを提供しており、リコーは厳しい競争を強いられる。

 「既存サービスは普段使わないデータをためておく“倉庫”のイメージが強く、決め手に欠く」(生方リーダー=写真2)。グループインタビューなど市場調査を通じて独自の機能を模索した。先行サービスとの差異化のために、ネット上に置いた写真やワープロ文書などを中身が一目で分かる形で表示できたり、文書の中身までを対象に検索できたりという機能を盛り込んだ。

 リコーという大企業のなかで、「これまで新規事業が生まれては消えるのを自分自身が見てきた。華々しくやると社内の反発を招く。極力自分たちの手作りで、こっそりとやることを考えた」(生方リーダー)。プロジェクトチームのメンバー約30人は全員、リコー社内から集めた。メンバーにはデジタル複合機の基板や半導体の設計などの経験がある人もいたが、ネットビジネスについては素人。プログラミング言語「Ruby(ルビー)」を採用するなどオープンソース環境で開発したが、こうした経験にも乏しかった。

 「開発担当者もマーケティング担当者も壁を作らず、全員が自発的にアイデアを出せる雰囲気作りに特に気を配った。強制的にアイデアを出させるのではなく、自発性こそが創造性の源泉になるからだ」(生方リーダー)。そこで、チーム全員が集まるミーティングのほかに、「品質問題対策グループ」から「quanp上で動くゲームを考えるグループ」まで数人単位のワーキンググループを数十件立ち上げた。誰でも自発的にワーキンググループを立ち上げることができ、メンバーでなくても自由にミーティングに出て意見を言えるルールにした。

 文書操作時の派手なアニメーションなどの機能は、「『それで生産性が上がるのか』『リコーらしくない』などと社内からの評判は必ずしも良くはないが、チームとしての意見を尊重した」と生方リーダーは強調する。今後は携帯電話対応や写真プリントサービスとの連携などの機能強化も計画。「(quanpの機能を外部から簡単に呼び出してプログラムを作成できる)ウェブAPIの公開など、外部開発者が機能強化に参加できるようにすることも考えている」(生方リーダー)という。