全国に9工場を抱えるキユーピーの生産本部の間接部門で、従業員の座席を固定せず毎日自由に席を選ぶ「フリーアドレス」の導入が進んでいる。フリーアドレスを営業部門で採用する企業は少なくないが、生産本部の間接部門に導入する事例は珍しい。現在、6工場にまでフリーアドレスの導入が進んだ。

 一般に、フリーアドレスは営業部門など外出する従業員が多い部署でファシリティーコストの抑制を最大の狙いとして取り組む事例が多い。これは、「営業担当者は外出しがちなので定員分の席がなくても大丈夫」という、経営側の発想で進められている。ところがキユーピーの取り組みは、間接業務を担当する部署が自発的に取り組んでいる点が異色である。

 導入のきっかけは、業務効率化の改善活動に取り組む従業員のアイデアだった。キユーピー生産本部では2007年度から本格的に始めた間接部門での業務改善活動「HIT(ヒット)活動」に取り組んでいる。この活動では、トヨタ生産方式を応用して開発されたシステム科学(東京都文京区)のIT(情報技術)ツール、「HIT」を使って、間接業務の簡略化や、無駄の多い工程の時短を進めている。間接業務を「情報の製造ライン」に見立てることで、問題を顕在化させ、改善を重ねやすくする。

 この活動が浸透してきた結果、間接業務を効率化するためには複数ある間接部署を1部屋に集約し、席を並べて一緒に仕事をしたほうがよいという意見が従業員から出てきた。フリーアドレス導入を経営側の発想で推進しようとすると従業員が「資料を減らせない」「部下の指導が難しくなる」などと難色を示すケースが多いが、同社では、HIT活動に前向きな風土が導入を後押しした。

間接業務を担当する5つの部署を1つの部屋に集めたキユーピー仙川工場のオフィス風景   改善活動に前向きな同工場の従業員
間接業務を担当する5つの部署を1つの部屋に集めたキユーピー仙川工場のオフィス風景(左)と改善活動に前向きな同工場の従業員(右)。無線LANとノート・パソコンを使って、フリーアドレスを実現している。
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 2007年度に先陣を切った仙川工場では、原資材調達や生産管理、総務など計5つの間接業務部署が仕切りのない1つの部屋に集まり、従業員はノート・パソコンを手にその日の仕事に適した席に座るようになった。部署間の連携が早くなったり、業務改善のアイデアが出やすくなったりしたという。日々机を片づけて帰るため、整理・整とんも進んだ。

 フリーアドレスの効果もあって、HIT活動も大きな成果を上げている。2007年度は間接部門の約500人のうちおよそ4分の1が活動に参加、431件の業務を改善し、延べ1万3692時間分の作業を削減した。生産本部長の勝山忠昭取締役は、「仕事の質を高める改善に意欲的に取り組む風土作りを最優先してきた」と改善が順調に進む理由を語る。勝山取締役やHIT活動事務局が、やらされ感を払拭できるよう様々な知恵を凝らし続けている。例えばHIT活動は強制参加ではない。HIT活動のやり方を指導するのは、外部コンサルタントではなく、事務局や先行職場の社員だ。時短目標はハードルを高くし過ぎないようにし、短期間で一気に時短を進めるよりも、こつこつと改善を重ねることを重視している。