ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルは,業務用パソコンのシン・クライアント化を進めている。これまでに約100台のシン・クライアント専用端末を導入済みで,2009年までにさらに180台の業務用パソコンをシン・クライアント専用端末に置き換える計画である。シン・クライアントの導入によって,端末管理の効率化を図る。

ブレードPCを計260台導入

 同ホテルが採用したシン・クライアント・システムは,日本ヒューレット・パッカード(HP)の「HP CCI(Consolidated Client Infrastructure)」である。ブレードPC型のシン・クライアント・システムで,OSやアプリケーションはブレードPC上で実行し,画面情報だけをシン・クライアント端末に送信する。同システムは,米マイクロソフトの画面転送プロトコルであるRDP(remote desktop protocol)が使える。そのため,シン・クライアント端末として使う専用端末以外に,Windowsが稼働するパソコンを組み合わせられる。

 同ホテルはこれまでに,ブレードPCとして「HP bc1500 Blade PC」と「HP bc2000 Blade PC」を計220台導入した。最終的には計260台まで増やす計画である。これにシン・クライアント専用端末である「HP Compaq t5720 Thin Client」(以下t5720)を組み合わせる。同社が導入したt5720は現在約100台。残り180台は,今のところ既存のパソコンをシン・クライアントとして使う。

 なお,最終的に導入予定のブレードPCは260台で,シン・クライアント端末の合計台数より20台少ない。これはホテル内の業務端末すべてが常時稼働しているわけではないからである。

パソコンのトラブル対応に忙殺

 同ホテルでは,WordやExeclといったマイクロソフトのOfficeアプリケーションのほか,フロント用や宴会用などホテル特有の業務アプリケーションを利用している。業務アプリは,クライアント/サーバー型で,CCI導入以前はパソコン上でクライアント・アプリを稼働させていた。

写真1●ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルの林直樹情報システム支配人
写真1●ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルの林直樹情報システム支配人

 その際,問題になったのはトラブル時の対応である。トラブルに対応できるのは,情報システム支配人の林直樹氏(写真1)を含めてわずか2人だけだった。パソコンは,フロントデスク,ロビー,経理や営業といった業務部門などホテル内の至る所に設置されており,トラブルが発生するたびに現場に行かなければならなかった。

 2~3台のパソコンが同じタイミングでトラブルに遭うケースもあり,林支配人らは対応に忙殺されたという。「サポート業務の削減に役立つシステムはないか」(林支配人)と探し求めて,到達したのがアプリなどを1カ所で集中管理できるCCIだった。

業務アプリはそのまま継続利用

写真2●ロビーに設置されている業務用シン・クライアント端末
写真2●ロビーに設置されている業務用シン・クライアント端末

 同ホテルは,これまで使っていた業務アプリをそのままCCIで活用している(写真2)。クライアント用アプリがそのままブレードPC上に稼働しており,アプリの管理は情報システム室内だけで完結する。

 端末などの管理に使うのが,「HP SAM(Session Allocation Manager)」と呼ぶ管理ツール群である。これらを使うと,端末がブレードPCに接続する際のユーザー認証や,端末が使用するブレードPCの割り当てなどを管理できる。SAMによる管理によって,「ユーザーがどのブレードPCを使っているのか容易に分かる」(林支配人)。

 アクセス管理の仕組みは次のようになる。まずシン・クライアント端末の起動時に,端末に搭載されたHP SAMのエージェント・ソフト「SAM Client」が管理用の「SAMサーバー」にアクセスする。そしてユーザー名などをHTTPで送信し,ブレードPCの利用を申請。SAMサーバー側は,ユーザー情報をマイクロソフトのディレクトリ・サービス「Active Directory」で確認し,利用可能なブレードPCの情報をSAM ClientにHTTPで送信する。接続を許可された端末は,ブレードPCとの間をRDPによって通信する(図1)。

図1●ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルが導入した日本HPのシン・クライアント・システム「HP CCI」
図1●ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルが導入した日本HPのシン・クライアント・システム「HP CCI」
最終的には約260台のブレードPCで280台の端末をカバーする。無線LANでノート型シン・クライアント端末を導入する計画も立てている。
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 シン・クライアント導入のために,一部LANを強化した。ブレードPCと業務アプリケーション・サーバーとの間はトラフィックが集中する。パフォーマンス低下を防ぐため,業務アプリケーション・サーバー側には,複数のLANケーブルをつないで冗長化するリンク・アグリゲーションに対応したNIC(network interface card)を4枚もしくは2枚増設。ギガビット・イーサネットの回線を束ねることで最大4Gビット/秒の帯域を確保して,システムを安定利用できるようにした。

熱対策や電力供給が課題

写真3●情報システム室で管理されている日本HP製のブレードPC「HP bc2000 Blade PC」
写真3●情報システム室で管理されている日本HP製のブレードPC「HP bc2000 Blade PC」

 ブレードPCは,ホテル内の情報システム室に設置して集中管理している(写真3)。トラブルが発生しても,現地に足を運ばずにほぼ情報システム室内で作業が完結するため,「メンテナンス作業は,今までとは比べものにならないくらい楽になった」と,林支配人はその効果を語る。

 ただしメリットだけではなく,注意すべき点も見えてきた。それは,「ブレードPCを1カ所で集中的に管理すると,予想以上に電力を消費して熱が出る」(林支配人)ことだ。このため,「熱対策のための空調設備の増強や,非常時の電力供給のためにUPS(無停電電源装置)が必要だ」と,林支配人は説明する。



ここがポイント

目的:クライアント端末の効率的な運用管理

システム:日本HPのシン・クライアント・システム

導入時期:2006年10月~2009年

効果:クライアント端末の障害時のサポートやメンテナンスの負担が小さくなった

●ホテル・プロフィール
所在地: 横浜市西区
開業: 1991年8月20日
従業員数: 540人
客室数: 600室
施設: 地上31階,高さ140m,延床面積7万m2

●ネットワーク・プロフィール
1997年から100Mビット/秒のLANを構築。無線LANは,業務用にIEEE 802.11a,客室用に802.11b/gを導入している。