シモンズ・ジャパンの「ギャラリー」と呼ばれるショールーム
シモンズ・ジャパンの「ギャラリー」と呼ばれるショールーム
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 「当社製マットレスのコア技術『ポケットコイル』に磨きをかけ続けてきた。そのおかげで、1泊3万円以上の国内高級ホテルの7割強に当社のベッドが採用され、寝心地に感動した宿泊客が指名買いしてくれるケースが増えている」(シモンズ・ジャパンの小野寺優社長)

 東京都港区に本社を構えるベッドの製造・販売会社、シモンズ・ジャパンの業績が好調だ。2008年3月期の売上高は5年前の1.5倍強に当たる約160億円に拡大した。国内ベッド市場は1990年ころから伸びが横ばいに転じている。競合他社が用途や機能の面で製品の多様化へと向かう傍ら、同社は伝統技術を軸とした高品質志向を貫いてきた。

 シモンズ・ジャパンは米シモンズと東京ベッド製造の合弁会社として64年に設立。87年に米シモンズから資本的に独立し、96年に自動車向け樹脂部品メーカー、ニフコの傘下に入った。米シモンズは1870年創業で、米国では著名な俳優や政治家などにファンが多い。そうした逸話も営業トークに使い、シモンズ・ジャパンは国内の高級ホテルを積極的に攻めている。

 このマーケティング戦略のポイントは「くつろぎを感じさせるリッチな就寝体験」にある。例えば2001年以降、ザ・ペニンシュラ東京やマンダリンオリエンタル東京など、都内で外資系高級ホテルの開業ラッシュが続いたが、その大半にシモンズ製品を納入することに成功した。1000セット以上のベッドを一度に販売できるうえ、一般消費者よりも短い平均7年間で買い替えてもらえる。

 メリットはほかにもある。高級ホテルへの納入実績を重ねることでリッチなブランドイメージを醸成でき、実際に快適な寝心地を体験した宿泊客の口コミによる指名買いを促しやすくなるのだ。

 東京・日比谷と銀座、大阪、福岡、名古屋に設けた「ギャラリー」と呼ぶ豪華なショールームも、高級イメージの向上に一役買う。ギャラリーでは販売をせず、多数のシモンズ製品を体感してもらうだけにとどめる。実はギャラリーを訪れる顧客の多くは、百貨店の外商担当者などに同伴されてくる。実際の販売はこうした百貨店などを通じて行われるのだ。寝具コーナーを年々縮小しつつある百貨店にとって、ギャラリーは心強い存在であり、シモンズ・ジャパンも販売費を抑制できる。

シモンズ・ジャパン(東京都港区)の小野寺優社長。6月24日から親会社である自動車向け樹脂部品メーカー、ニフコの社長に就任する予定
シモンズ・ジャパン(東京都港区)の小野寺優社長。6月24日から親会社である自動車向け樹脂部品メーカー、ニフコの社長に就任する予定

 さらに、2000年から高級ホテル向けにOEM(相手先ブランドによる生産)事業を始めたことも、シモンズのブランドイメージを高めている。現在、ウェスティンホテルが「ヘブンリーベッド」、帝国ホテルが「スリープワークス」というオリジナル製品を販売しているが、いずれもシモンズが製造を担う。「お客様は、こうした高級ホテルが販売するベッドが当社製だと分かってくれている」と小野寺社長は見る。

 シモンズ・ジャパンは日本だけでなく、中国や香港、台湾、シンガポールなどアジア23カ国でシモンズブランドのベッド販売権を持つ。同社は品質を重視するがゆえに国内生産にこだわり、アジア各国に製品を輸出している。国内工場では2000年から、全社的な生産保全活動であるTPM(トータル・プロダクティブ・メンテナンス)活動を継続中だ。

 「中国ではシモンズのブランド力とメイド・イン・ジャパンであることが高く評価され、数十万円の製品もよく売れる」と小野寺社長は明かす。2008年3月期は売上高の約3分の1を輸出事業が占めた。同社のここ数年間の好業績はアジア地域での高級ホテルの開業ラッシュと富裕層の台頭に後押しされたおかげでもある。