写真1●ベターリビングの米澤昭 住宅部品評価登録グループ長併カスタマー・コミュニケーション室長 左手にハンディ型ICタグ・リーダー、右手にICタグ付きの火災警報器を持つ
写真1●ベターリビングの米澤昭 住宅部品評価登録グループ長併カスタマー・コミュニケーション室長 左手にハンディ型ICタグ・リーダー、右手にICタグ付きの火災警報器を持つ
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写真2●ICタグ付き「BLシール証紙」を張り付けた火災警報器 右は日立製作所のミューチップがたくさん入ったボトル
写真2●ICタグ付き「BLシール証紙」を張り付けた火災警報器 右は日立製作所のミューチップがたくさん入ったボトル
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 無線ICタグを使い、商品のライフサイクル全体でトレーサビリティ・システムを構築した事例がある。国土交通省が所管する財団法人「ベターリビング」が火災警報器に適用したものだ。

 火災警報器は改正消防法により、2011年5月末までに全住居の寝室などに設置することが義務付けられた。問題は、電池切れや機器の劣化などから、定期的な点検・交換が必要なこと。設置義務を負う賃貸事業者にとっては、もし火災警報器が作動せず、住民に被害が出れば責任問題になる。既設の住居ごとに設置時期を管理し、定期点検する仕組みが必要になる。

 「ICタグを使えば、この問題を解決できる」。そう考えたのがベターリビングの米澤昭 住宅部品評価登録グループ長併カスタマー・コミュニケーション室長だ(写真1)。ベターリビングは、高品質の住宅部品を認定し、「BLマーク証紙」を発行している。都市公団と地域公団が一緒になったUR都市機構などがBLマーク証紙付きの部品を調達しており、そのBLマーク証紙にICタグを埋め込むというアイデアだ(写真2)。ICタグには、シールにしたときのアンテナ・サイズが小さくて済む2.45GHz帯(日立製作所のミューチップ)を採用した。

 ベターリビングがトレーサビリティ情報を一括管理するサーバーを運営し、そこにメーカーや、設置工事を請け負う施工業者がデータを登録する。火災警報器メーカーは製造時にBLマーク証書のICタグを読み取り、そのID(ucode)とメーカー名や型式、製造年月日をひも付けて、サーバーに送信。その火災警報器を受け取った工事施工業者は、施工時にICタグを読み取り、設置場所とその時期をベターリビングのサーバーに登録する。これでUR都市機構などの住宅会社が、個々の住宅の火災警報器の点検時期を一括して調べられるようになる。ベターリビングはUR都市機構の64万戸に対して今回のシステムを適用していきたい考えだ。

■変更履歴
本記事の初出時に、「UR都市機構は76万の全戸に今回のシステムを適用していく」とありましたが、事実との相違があったため「ベターリビングはUR都市機構の64万戸に対して今回のシステムを適用していきたい考えだ」に修正しました。お詫びして訂正します。[2008/5/29 19:50]

回収費用7000万円が30万円に

 今回のシステムが07年2月に稼働したあと、同年8月には思わぬ効果が表れた。施工現場からの報告により、あるメーカーが、BL認定を受けていない製品にBLマーク証紙を張り付けて納入していたことが判明したのだ。メーカーは製造ロットなどを調べ、06年12月25日に製造した565台に誤ってBLマーク証紙を張り付けたことを突き止めた。問題は、その565台がどの住居に設置されたかである。

 設置した可能性があった住居は約22万戸だった。従来ならば、全戸を訪問して調べないと、どこに設置されたかが分からない。ところが今回は、ベターリビングのシステムを調べることで、施工場所がピンポイントで分かった。システムに登録されていたのは、ミスが発覚した07年8月時点で406台。残りの約160台は、施工業者が在庫として抱えているとみられた。ベターリビングはそのあとシステムを毎日チェックし、対象製品が設置されるのを監視した。07年末には全製品を特定し、回収できた。

 もし22万カ所を戸別訪問していたら約7000万円のコストがかかる計算だった。今回はそれを約30万円に抑えることができた。

 今後の課題は、今回のシステムをいかに“ペイ”する仕組みにできるかである。今回の仕組みをベターリビングは、BLシール証紙の付加価値として考えているが、1枚100円の証紙代は従来から変えていない。現在はシステムにかかわる追加コストの多くをベターリビングが負担している状態だ。

 施工業者などが使うハンディ型リーダー(300台)は月額5000円のリースで貸し出しており、UR都市機構などの住宅会社が費用を負担している。ベターリビングが負担しているのは、1枚50円以下のICタグ・インレットやサーバー・システムのコストのほか、各施工業者への講習費である。「年配の方が多い施工担当者などへの講習費やコールセンター費が年間2000万円ほどかかっており、特に負担になっている」(米澤氏)という。

 BLシール証紙が付いた火災警報器は現在、83万台程度。一方、火災警報器全体の市場は1億台程度である。今回のトレーサビリティ・システムと付加価値として、BL部品の利用を広げたい考えだ。

■変更履歴
本記事の初出時に、「BLシール証紙が付いた火災警報器は現在、220万台」とありましたが、正しくは「83万台」です。本文は修正済みです。 [2008/5/29 19:50]