写真●トステムの加藤清志・品質保証部部長
写真●トステムの加藤清志・品質保証部部長

 住宅設備大手、住生活グループ傘下のトステム(東京都江東区)は今年1月、製品の安全性を確保するための対策をまとめた「製品安全基本方針」を策定した。この方針に基づき、社内のリスク管理体制を整備して、小さな事故やトラブルといった、いわゆる「ヒヤリハット」情報の収集を強化している。加藤清志・品質保証部部長は「小さな事故のうちに対処することで重大事故を防ぎ、さらに製品の品質向上に生かすため」と目的を語る。

 2005~2006年にかけて、松下電器産業の石油暖房機やパロマのガス器具などで重大事故が発覚した。これらの事例では、長年寄せられてきた品質トラブルの情報を見落とした結果、利用者の被害を拡大させてしまい、企業のブランド価値も大きく損ねた。トステム自身はこれまで重大事故を起こしたことがないものの、「決して他人事ではないと危機感を抱いた」(加藤部長)。

 とはいえ、想定できるトラブルをすべて洗い出し、解析しようとすれば膨大な時間とコストがかかる。そこで同社は、お客様相談室に週に2件ほど寄せられるヒヤリハット情報をこれまで以上に詳細に検証し、活用することにした。

 具体的には、相談室に寄せられたヒヤリハット情報を品質保証部が集約。指摘内容が初めてのものだった場合には、製品の技術者などを現場に派遣し、状況を検分する。技術者が持ち帰った情報は、毎月1回開催する会議を通じて、各事業部の課長・係長クラスが務める製品安全担当者に共有させる。製品安全担当者は個々の製品の対応状況を確認することはもちろん、説明書の見直しなどにも情報を生かす。

 ヒヤリハット情報を生かした改善例としては、手すりのコーナー部分を保護する化粧用キャップを改良した取り組みがある。従来は保守を容易にするために簡単に脱着できる部品を使っていた。ところが、高齢者が手すり部分と同じように化粧用キャップをつかんでしまい、キャップが外れるトラブルが発生したという情報が寄せられた。この情報が寄せられて以来、同社は手すりコーナーを簡単に脱着できない製品に切り替えた。

 このようにヒヤリハット情報を製品の改善に生かすことは、「結果的にバリアフリー設計にもつながる」(加藤品質保証部部長)という。手すりの安全性向上につながった化粧用キャップの改良は典型的な例と言える。トステムはこうした取り組みを通じて製品の競争力の強化を目指す。