高齢者介護サービスの現場では,介護支援専門員(ケアマネージャー)や訪問介護士(ヘルパー)らの人材不足と,高齢化に伴う介護対象者の増加,介護保険制度に関わる煩雑な事務処理など,事業者の作業負荷は高まる一方の状況にある。このような中で,東京都中野区を拠点に介護や介護予防サービスを提供する特定非営利活動(NPO)法人のあおばは,携帯電話を業務端末として活用するSaaS(software as a service)型のシステムを導入。ヘルパーの勤怠や業務活動管理,各介護対象者の状況管理,および事務処理の効率化を図る取り組みに着手した。

 介護保険制度の下では,高齢者が介護や介護予防サービスを希望する場合,地域包括支援センターあるいは介護保険課の窓口へ申請を行って,介護や日常生活での支援が必要な状態であるのかどうかを判定する「要介護認定」を受けなければならない。調査員が家庭を訪問して状態を確認する認定調査や,主治医の診断のもと介護が必要と判定された高齢者はさらに介護の度合いに応じて7段階に区分される。介護区分ごとに支給限度額が設定されている。介護サービスを利用する場合は利用者負担が原則として1割だが,上限を超えると全額自己負担となる。

 運用上では,支給限度額を金額ではなく単位数(点数)として管理している。ケアマネージャーは各介護対象者に定められた持ち点の範囲で,自立に向けた最適なサービスを提供する介護プランを作成する。またヘルパーは介護対象者の自宅を訪問する度に,提供サービス内容とそのサービス種別ごとに決められた報酬の単位数を合算して利用者へ提示。介護対象者の持ち点を管理するほか,毎月のサービス提供に応じた単位数を審査支払機関に対して申請請求し,介護報酬の支払いを受ける必要がある。

カルテ作成業務を効率化し,介護サービスの充実に

 携帯電話を活用する業務システムの導入以前には,まず介護プランをパソコンで介護事業者向けのソフトに入力し,ヘルパーの活動計画を立てていた。ヘルパーが介護対象者の自宅を訪問した際には,紙のカルテに提供サービス内容を記録。そのカルテを事業所に持ち帰ると,管理スタッフが改めてパソコンにデータを入力し,活動内容を管理する。ケアマネージャーは,このカルテ記録の内容からサービス提供状況や,介護対象者の症状を確認し,定期的に介護プランを見直していく。

あおば所長の白濱俊彦氏
写真1●あおば所長の白濱俊彦氏
 活動データは毎月末に締めて,これを基に翌月10日までに報酬の請求手続きを行わなければならない。また,各スタッフの活動実績を把握し,給与を支給する業務もある。従来までは,紙ベースのカルテを1枚ずつ突合せながら単位数を集計し,煩雑な申請請求やスタッフへの支払い手続きに追われざるを得なかった。

 あおばには,ヘルパー約20名と,ケアマネージャー2名のスタッフが在籍。この中には,管理業務を兼ねたヘルパーも含まれる。他の事業所を兼務する登録スタッフも多く,1人あたりの訪問宅は1日に数件にも及ぶ。「手厚いサービスが求められる介護業務に加えて,月初は事務手続きに多忙を極めるのが常だった」と話すのは,あおばの白濱俊彦所長(写真1)。とにかく書類が膨大になって管理も容易ではない。

 カルテを書くのが不得意で月末にまとめて提出するスタッフもあり,事務手続きの負荷はさらに増大する。「書類を書くのに貴重な時間を費やすよりも,もっと介護サービスに専念する方法はないだろうかと常々考えていた」(白濱氏)。この悩みに対して,携帯電話を活用したSaaS形式の業務システムを提案したのが,あおばの筋向かいにオフィスを構えるソリューションベンダー,Private Stock代表取締役の鈴木賢一氏だった。

携帯電話を端末にしたSaaS型システムを導入
写真2●携帯電話を端末にしたSaaS型システムを導入
 地域で顔を合わせれば,普段から親しく会話を交わす仲であるあおばの白濱氏と,Private Stockの鈴木氏。白濱氏からの相談を受けて鈴木氏は,自社で開発を進めていた派遣社員の勤怠管理を行うSaaS型システムを,介護サービス業務向けに改良することによってシステム構築する案を提示した(写真2)。

 あおば側では市販の介護サービス業務向けソフトなどと比較検討した上で,Private Stockのシステムを導入することを決断。「導入や運用コストが高い既存のソフトに対して,Private StockのSaaS型システムは初期費用が不要で安価に運用でき,使い勝手も良かった」と,白濱氏は採用の理由を説明する。

 システムを導入したのは2007年12月。「すでに利用しているパソコンや,キャリアを選ぶことなく手持ちの携帯電話を利用できるため,採用を決めてからはすぐにシステムを構築できた」(Private Stock 鈴木氏)。実際に運用しながらよりユーザビリティや機能性を改善していくなど,2社による共同開発体制でシステムの精度を高めていくプロジェクトを発足した。