会社取引所の土居慎也・代表取締役(左)と森川義之・最高業務執行責任者(右)
会社取引所の土居慎也・代表取締役(左)と森川義之・最高業務執行責任者(右)

 「私の会社を買いませんか」――自らM&A(合併・買収)を希望する中小・零細企業の情報を集めてオンラインで買い手に提供するユニークなネット系ベンチャー企業、「会社取引所」が、2007年4月にサイトを運営してから満1年を迎えた。同社によるとこの1年間でM&Aが成立したのは5件。ひとまず順調な滑り出しと言えるが、中小企業のM&Aの活性化に向けて課題も見え始めている。

 同社の土居慎也・代表取締役は「当社のビジネスは会社の"出会い系サイト"だ」と話す。"売り手"は、売上高数千万~30億円規模の中小企業が中心。エステティックサロンや調剤薬局、ソフトウエア開発、運送、飲食など業種は幅広い。"買い手"は上場企業が中心という。

 まず売り手は、同社に月額利用料は3150円(6カ月を経過以降は1050円)を支払い、決算データや所在地、業種、事業内容などの基礎情報を登録し、買い手からのコンタクトを待つ。

 買い手は地域や業種などの条件で絞り込んで、売り手を検索できる。ただし、この段階では、買い手・売り手ともに相手の具体的な社名は表示されない。買い手が特定の企業に興味を持った場合、売り手に社名を開示して「秘密保持契約(NDA)」の締結を依頼する。売り手がこれに応じれば、お互いが社名を明かしあっての売買交渉がスタートする。この段階より先は、ネット上ではなく、当事者間の直接交渉になる。この際に、仲介やデューデリジェンス(M&A実行前の財務・法務などに関する調査)が必要とされる場合、そうした業者も同サイトから探し出すことができる。

 同社がこのビジネスを企画した理由は、「後継者難や経営難を背景に事業売却を考える中小企業は増えているのに、売り手は地方に、買い手は東京など都市部に偏在していて、なかなかマッチングが成立しない」(土居代表)ためだという。また、土居代表によると、通常、会社を売ることを考える経営者は、買い手探しを出入りの税理士などに相談することが多い。だが「こうした税理士もあまり買い手の情報を持っていない」(土居代表)。

売り手の自己評価や、仲介業者の質に課題

 この1年間の運用で、M&Aの活性化に向け新たな課題があることも見えてきた。売り手と買い手が「秘密保持契約(NDA)」を締結して具体的な交渉に入っても、実際に売買が成約する率は1割程度にとどまっている。
 
 売り手側の問題は、売買価格の詰めに入った時に、これまで手塩にかけて育てた自分の会社の価格を「人生の通知簿」ととらえて、過大評価しがちなことだという。「クロージング(成約)に近づくほど、売り手が本音を出すようになる。途中までいい雰囲気だったのに、険悪になって物別れに終わることもある」(土居代表)

 M&A仲介業者の質の向上も課題だ。本来は、話がこじれかけた時には、会社の値段の相場を伝えつつ上手な税金対策をアドバイスしながら売り手の意志を誘導していくといった手腕が仲介業者には期待される。だが、中小企業のM&A(企業の合併・買収)案件に関しては、こうした腕利きの仲介業者はまだ少ないようだ。「売り手から数百万円もの着手金をせしめながら最後まで面倒を見ない悪質な仲介業者もある」(土居代表)。このため、会社取引所には約100社の仲介業者が登録しているが、土居代表らは必ず訪問して事前審査したうえで登録。さらに、サイトで仲介業者に関する口コミ情報が見られる機能も用意した。こうして徐々に質の高い仲介業者が集まることを期待している。

 年内にウェブサイトの機能を強化することも検討している。売り手が自分の会社の値段を冷静に考えるきっかけになり得るような情報の見せ方や、買い手側に一層の利便を図る必要性を感じているという。「エステや調剤薬局など引き合いが活発な業界については専門のコーナーを設けて、どんな会社が売りに出ているのか一覧できるようにしていく。財務諸表の詳しい明細までネット上で見られるようにすることも検討している」(森川義之・最高業務執行責任者)という。