写真1●アイケイコーポレーション経営企画室システムソリューションセクションの小熊和弥シニアリーダー
写真1●アイケイコーポレーション経営企画室システムソリューションセクションの小熊和弥シニアリーダー

 全国で中古バイク買い取りサービス「バイク王」を展開するアイケイコーポレーションは2007年11月,イー・モバイルが提供するスマートフォン「EM・ONE」約50台を東京地区に導入した。

 狙いは「バイクを査定するスタッフの業務の効率化と,初期導入コストの削減,機器トラブルの最少化」(アイケイコーポレーション経営企画室システムソリューションセクション小熊和弥シニアリーダー)である(写真1)。

スマートフォンで透明な査定を実施

 バイク王のビジネス・モデルは,ユーザーからバイクを買い上げ,整備したうえで中古バイク・ショップなどが加盟するオークションで販売すること。オークションでの販売価格から,買い取り価格と各種経費の合算を引いた額が同社の営業利益となる。当然,ユーザーから安く買えれば,利益は増える。だが,買い取り価格があまりにも安いとバイクの売り手が集まらない。つまり,いかに適正な価格でバイクを買い取れるかが経営上重要となる。

 適正な買い取りのために,同社が使っているのが査定用のアプリケーションである。従来PDA(携帯情報端末)で使っていたものをEM・ONE上で稼働させた。このアプリケーションの画面上でバイクの各パーツの状態を選んでいくと,最終的な査定額が自動で算出される(図1)。そのため,査定員のスキルのばらつきによる査定額のブレが抑えられる。査定員は,ユーザーといっしょに画面を見ながら作業を進めるので,「ユーザーに不当な価格で買い取られていない,という安心感を与えられる」(小熊シニアリーダー)メリットもある(写真2)。

図1●スマートフォンで稼働する査定用アプリケーション
図1●スマートフォンで稼働する査定用アプリケーション
バイクのパーツを画面から選択し,各パーツごとに用意された項目を評価する。評価し終わった個所は赤くなる。すべての項目をチェックした後,送信すると査定結果が画面に表示される。
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写真2●査定の様子
写真2●査定の様子
顧客とEM・ONEの画面を確認しながら,チェックし,査定額を提示できる。

 ただし,すべてが自動というわけではない。ワークフロー上,買い取り価格は現場の査定員ではなく,店舗や本社のスタッフが最終的に承認する。査定員が査定項目を送信し,本社や店舗のスタッフがそれを確認・承認した後,端末に査定額が表示される。こうした仕組みだと,結果が出るまで時間がかかる可能性があるが,「現場とセンター側が緊密に連携することで2~3分で表示されるようにしている」(小熊シニアリーダー)という。

 承認者はバイクの外観も査定の判断材料にする。そのため査定員はEM・ONEのカメラを使い,現場でバイクの写真を撮影。それを電子メールに添付して送る。このとき,査定ごとにユニークな管理IDをメールの件名に付けることで,自動的にセンター側で査定情報と写真が関連付けられる。

初期の端末はPHS内蔵ノート

 現在は,端末としてEM・ONEを導入し,通信回線にイー・モバイルの下り最大3.6Mビット/秒のHSDPAサービスを使っているが,ここに至るまで,2種類の端末,3種類の通信回線を乗り換えてきた。

 同社がITを活用した査定業務支援を開始したのは2002年11月のこと。当時はDDIポケット(現ウィルコム)のAirH"モジュールを搭載した富士通製ノート・パソコン「LOOX S」を使っていた。ただし当時のAirH"は,「速度が最大64kビット/秒と遅かった上,郊外での査定時は圏外になることが少なくなかった」(小熊シニアリーダー)。

 次に利用したのが,最大2.4Mビット/秒で通信できるKDDI(au)のデータ通信カードとLOOX Sのセットである。「実スループットでも700kビット/秒になり,ストレスがかなり減った」(小熊シニアリーダー)。他社の3Gデータ通信カードも評価したが,郊外での電波の入りやすさでKDDIを選んだ。

取り回しの良さと価格でPDAに移行

 2006年11月に,ノート・パソコンからデルのPDA「Axim X51v」に移行した。インターネットへの接続には,Bluetooth経由でKDDIの携帯電話を利用した。

 PDAに変更したのは,査定員が取り扱いやすい上,導入コストが抑えられるためだ。ノート・パソコンは20万円程度であるのに対し,PDAは6万円程度だった。

 X51vを選択したのはVGAの液晶画面を備えていたからだ。ユーザーと対話しながら査定するシステムを作るには,QVGA(320×200ドット)では解像度が足りなかった。

 ところが,導入後間もなくAxim X51vが生産中止になった。VGA対応の他のPDAを探したがなかなか見付からず,最終的にウィルコムの「W-ZERO3」を選んだ。ただし,エリアの広さを考慮して,通信手段としてKDDIの携帯電話を使い続けた。

 苦労したのは,KDDIの携帯電話とW-ZERO3をBluetoothで接続する部分だ。「SDカード・スロットにBluetoothモジュールを挿すことで,携帯電話に接続したが,これがメーカーのサポート外の使い方になってしまった」(小熊シニアリーダー)。サポートが受けられないと故障の際に不安だ。しかも通信には,PDA,Bluetoothモジュール,携帯電話の三つの機器を使うため,トラブル時の原因究明が難しい。

 そんな悩みを抱えていた時期に登場したのがEM・ONEである。PDAと通信モジュールが一体となっているため,システムの煩雑さやサポート上のトラブルは発生しない。さらに,「複数年契約で端末の導入コストを大幅に下げられた」(小熊シニアリーダー)。

 イー・モバイルは新興の携帯電話事業者であるため,今のところカバー・エリアは都市部に限られるが,東京地区限定で導入すれば問題はない。今後は,イー・モバイルのエリア拡大を見ながら,EM・ONEの利用地域を検討していく。

初期はWebアプリとして実装

 端末が変化するのに併せて,査定システムも変化を遂げている。

 ノート・パソコンを配備した当初は,Webブラウザを使ったシステムが稼働していた。査定員のスキルの均一化はある程度達成できたものの,いくつかの問題を抱えていた。

 まず,査定金額が自動で計算されない点。現場で入力したデータはセンターに送られた後,本社や店舗にいるスタッフがこの評価項目を一つずつ確認して,査定金額を決めていた。

 さらに,直感的な操作ができない点も問題だった。画面は現在のようなグラフィカルなものではなく,専門的なパーツ名と項目が並んでいるだけで,新人スタッフには敷居が高かった。

 レスポンスの悪さも問題になった。項目を入力するごとに,Webサーバーとの通信が発生する仕組みを採っていたためだ。当時使っていたPHSの通信速度の遅さもボトルネックだった。

 1年後の2003年末のシステム更改では,おおよその査定額が出せるレベルにはなった。ただ,このときのシステム更改は基幹システムの構築を主目的としていたため,操作性やレスポンスの悪さといった問題は先送りされてしまった。レスポンスについては前述したようにPHS(AirH")をKDDIのデータ通信カードに置き換えることで,ある程度解消できた。