日本生命保険は2007年8月,全国40カ所の顧客来店型店舗「ライフプラザ」にインスタント・メッセンジャー(IM)を導入した。目的は,情報漏えいを防ぎつつ,ライフプラザで働く従業員間のコミュニケーションを円滑にするため。特に,外勤者と内勤者の間の情報伝達をスムーズにするのが狙いである。導入したIMは,クリプトが開発した企業向けの「Yoctoセキュアメッセンジャー」(以下,Yocto)。現在,約1400人の内外勤者が利用している。
電子メールでは情報流出の懸念
写真1●IM導入を担当した日本生命保険の斉藤暁 営業企画部課長補佐 写真:花井 智子 |
ライフプラザには,顧客を訪問する営業担当の外勤者と,窓口や業務管理を担当する内勤者が働く。IMの導入以前,両者間の情報伝達は口頭や紙のメモに頼っていた。しかし,「伝達に時間がかかったり,伝達漏れが発生していた」(IMの導入を主導した日本生命保険の斉藤暁営業企画部課長補佐,写真1)。IMの採用によってこれらの問題を解決したほか,内勤者同士のコミュニケーションも円滑にした。
従業員間の情報伝達手段としては,IMよりも電子メールが一般的だ。だがライフプラザでは,「社外への情報流出の懸念があるので(電子メールは)採用しなかった」(斉藤課長補佐)。企業向けのIMであればシステムは社内で閉じる(図1)。情報伝達の相手も社員に限られるので,電子メールよりも情報漏えいのリスクは小さい。
図1●日本生命保険は全国40カ所のライフプラザにインスタント・メッセンジャー「Yocto」を導入 |
Yoctoのサーバーは同社のコンピュータ・センターに設置した。サーバーの台数は3台で,センターとライフプラザをIP-VPN経由で接続。Yoctoではすべてのメッセージをサーバーを介して送受信するほか,メッセージの中身もサーバーでログとして保存する。
外勤者は携帯電話でIMを使う
日本生命保険のIM活用の特徴は,外勤者が携帯電話を使って内勤者とメッセージをやりとりする点。Yoctoには携帯電話のWebブラウザ版クライアントと,メッセージを携帯メールに転送する機能があり,連絡を取る際はこれらのいずれかを使う。
Yoctoは二つの情報伝達機能を備える。一つはコンシューマ向けのIMで一般的なチャット機能。もう一つはメッセージを相手の端末の画面上に一通ずつポップアップ表示する機能である。同社が使うのは主に後者だ。「ポップアップですぐに通知されるため,使用感覚が普段使っている携帯電話のメールに近い。ライフプラザの多くの外勤者にとってなじみがあった」(斉藤課長補佐)。
外勤者と内勤者間のIMの使い方は次のようになる。内勤者が顧客からの電話を受け取り,その旨をIMを使って外出中の営業担当者に伝える。営業担当者は,携帯ブラウザ版クライアントでメッセージを確認するか,携帯メールとして転送されてくるメッセージを読む。携帯ブラウザ版クライアントであれば,メッセージに返信できる。
内外でIMの端末を使い分ける
IMを活用する上で,日本生命保険はライフプラザの内外で使用端末を使い分けている。外勤者は前述の通り,出先では携帯電話を使ってIMを利用するが,ライフプラザ内では「デュオ」と呼ぶ専用端末で使う。デュオはWindowsパソコンをベースにした同社独自仕様の端末。保険料算出などのアプリケーションを搭載する(写真2,写真3)。出先で顧客へ保険商品を説明する際もデュオを使う。
写真2●日本生命保険の専用モバイル端末「デュオ」 タッチパネルも備える。 |
写真3●デュオとYoctoの画面 Yoctoはプレゼンス(在席情報)確認機能も搭載。画面右上がメッセージのポップアップ表示。 |
Yoctoはこのデュオにインストールされている。しかし,デュオは外部への情報漏えいを防ぐために,ライフプラザ内の無線LAN以外とは一切通信できない仕様になっている。
デュオをライフプラザ内で起動すると,自動的に無線LANに接続する。その際,最新情報やソフトウエアなどを自動ダウンロードする。Yocto導入時は,このシステムを使って各端末にYoctoのインストール・パッケージを配布した。
ただ,パッケージをダブルクリックして実際にYactoをインストールするのはユーザー自身である。ライフプラザに勤務する従業員は必ずしもITに詳しいわけではない。一部のライフプラザではなかなかインストールが進まなかったという。
そこで,「IM利用の成功事例を集めて,『こういう使い方ができますよ』,『処理のし忘れが無くなりますよ』といった話を配信した」(斉藤課長補佐)。こうした工夫によって,約1カ月半で1400人がIMをインストールするに至った。
毎日1200以上のメッセージが流れる
導入から数カ月を経た現在,日本生命保険のライフプラザでは,IMが必要不可欠のコミュニケーション・ツールになっている。当初はライフプラザによって利用頻度に差があったものの,今ではYoctoを導入したライフプラザのほとんどの従業員が使いこなしている。実際,「ログを見ていると,日々 1200~1500のメッセージのやり取りがある」(斉藤課長補佐)。
日本生命保険では2007年11月から12月にかけてIMの利用に関するアンケート調査を実施し,約430人から回答を得た。「IMは業務上必要か」との問いに対しては,85.9%が「絶対必要」もしくは「あると良い」と回答した。
現在,同社のライフプラザは全国に80カ所ある。その中でIMを利用しているのは約半数。今後はIM未導入のライフプラザにも徐々に利用を広げていく予定である。
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