キリンビールはビールに利用する大麦やホップなどの原料の品質情報を一元管理するシステム「PLANET」(プラント・アナリシス・ネットワーク・システム)を構築、2008年1月に本格運用を開始した。

 今回のシステム導入の狙いは、原料の成分分析結果をデータベースに登録するのに要する時間を大幅短縮することや、データ活用の推進、品質データの改ざん防止などだ。

キリンビール生産本部品質保証部酒類品質保証センターの岡田和也主査、寺田純子氏、大島礼子氏、キリンビジネスシステムのSCMシステム統轄部物流・生産システムグループの松田憲氏(左から順)
キリンビール生産本部品質保証部酒類品質保証センターの岡田和也主査、寺田純子氏、大島礼子氏、キリンビジネスシステムのSCMシステム統轄部物流・生産システムグループの松田憲氏(左から順)

 導入の大きな動機になったのは、品質にばらつきのある原料を配合して一定水準の味を作り出せるノウハウを形式知化することだった。商品開発などの目的で試験的に醸造する際に、従来は配合をベテランの経験に頼っていた。そこで、生産地や収穫年別で原料の成分を分析し、配合の組み合わせをデータ化したいと同社は考えた。また、厚生労働省により「ポジティブリスト制度」が2006年に施行されたことも、導入の必要性を高めたという。同制度は、従来は基準が設定されていなかった農薬などについても、一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止した制度である。あらゆる残留農薬について分析結果を記録し、トレーサビリティを確保しなければならないが、その手間が煩雑だった。

 ビールや食品などを生産するため同社で扱う原料を生産地や収穫年など別に分析すると、データ件数は全体で約25万件にのぼるという。原料分析を担当するのは品質保証部で、従来はそうして得た成分データを手作業でデータベースに記録し、必要に応じて各工場や商品開発部門には書面でその情報を提供してきた。

 今回のシステムは、分析装置で得たデータを直接データベースに取り込めるようにした。1サンプルが分析後にデータベースへ反映されるまでの時間は、従来の平均210分から同65分へと大幅に短縮した。また、データベースに登録された内容は、オンラインで生産部門などが直接参照できるようになった。

 それだけでなく、品質保証部が分析したデータをシステムに入力するまでの一連の業務フローを見直し、原料の種類と商品カテゴリー別に21種類もあったフローを最終的に4種類まで集約した。集約によってシステムの肥大化を防いだことに加え、「異動した際に業務フローを覚え直すための研修も短時間で済むようになった」(品質保証部酒類品質保証センターの大島礼子氏)。

分析装置で分析した原料の品質データをシステムに直接取り込めるようにした
分析装置で分析した原料の品質データをシステムに直接取り込めるようにした

 さらに品質データの信頼性を確保するため、データの改ざんを防ぐ仕組みも採り入れた。分析データを修正しようとすると、変更する理由を問いかける警告画面を表示する。理由を入力しなければ修正できない。また、データを修正するとその内容が理由とともに記録として残される。

 品質保証部酒類品質保証センターの岡田和也主査は、「商品開発や生産の効率化と、原料レベルでの安全性の保証を同時に図ることができた」と新システムの効果を語る。今回のシステムの構築費用は、ハードウエアが約6000万円、ソフトウエアが人件費を含めて約2億2000万円という。