ガラス張りの料理教室を運営するABC Cooking Studioの外観
ガラス張りの料理教室を運営するABC Cooking Studioの外観
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 女性専用の料理教室を全国で102カ所運営するABC Cooking Studio(以下ABC、東京都千代田区)が2008年5月から、食品メーカーなどとのタイアップ事業を強化し始めた。「ガラス張り」の料理教室に通う20万人以上の生徒にメリットがある商品であれば、タイアップするメーカーの試供品配布にABCが無償で協力する。

 ABCは料理教室に集まる20~30代の若い女性に食材などの試供品を積極的に配布することで「お得感」を演出しつつ、一方でタイアップしたメーカーには主な顧客ターゲットである「F1層(20~34歳の女性)に新商品を知ってもらう機会を提供する。ABCは会社帰りのOLや主婦が毎日集まってくる料理教室という「場」の力を最大限に生かし、生徒とメーカー、そしてABCの3者すべてにとって料理教室がより価値ある場所になることを目指す。

 これまでABCは料理教室を介したタイアップ事業でメーカーから一定の料金を徴収していた。だが、5月以降は特別な配布条件を伴わない試供品の配布に限って、メーカーからの料金徴収をやめることにした。その代わり、生徒にとって有益な試供品の配布機会を大幅に増やしたい考えだ。

 試供品の配布に協力するメーカーにしてみても、食べ物に関心が高い若い女性に新商品をまず1回食べてもらうことは、大きな意味がある。食品はとにかく一度食べてもらわないことには、なかなか「ブランドスイッチ」が起こらない商品といわれているからだ。試供品の配布をきかっけに最初の一口が始まり、そこから「おいしい」との口コミが広がれば、新商品に女性たちの目が向く可能性がある。

 ABCの片岡善樹リアルマーケティングカンパニープレジデントは「最近の口コミの発生源になっているブログの書き込みは、その半数以上が日々の食べ物についての内容で占められているといわれる。ABCでもらった試供品を食べてみておいしければ、女性たちがブログに書き込んで自然に紹介してくれる可能性が増すはず。そこから口コミが広がっていく」と話す。

 ABCはこれまで、メーカーとのタイアップ事業を別会社化していたABC Cookingリアルマーケティングで扱ってきた。しかし、2008年4月1日付で同社をABC本体に吸収。本業である料理教室の運営強化の一環に据え直した。今回の試供品配布の機会拡大は、新展開の最初の一手になる。

メーカーはレシピ開発のタイアップ復活に期待

 1987年の創業から20年が経過したABCにおいて、メーカーとのタイアップ事業の歴史は古い。既に13年前から料理教室で使う生徒向けのオリジナルレシピ開発にタイアップしたメーカーの食材を盛り込むことで、生徒に新商品を知ってもらう機会を提供してきた。これまでに200社以上のメーカーとタイアップした実績がある。

 ABCは、料理が苦手な女性でも自宅で簡単に再現できるメニューの開発と、社員自らが描くイラスト入りのレシピ作成に定評があるが、そのレシピにタイアップした食材を盛り込んで購買を促してきたのだ。夫や恋人に習ったばかりの料理を披露したい女性は失敗を避けたいがために、レシピに書かれた通りに食材を買い求めて料理をする傾向が強く、タイアップ効果は非常に大きい。こうした女性心理を突いたタイアップは、食品メーカーから好評を博していた。

 しかしABCは現在、こうしたレシピ開発でのメーカータイアップを塩や砂糖といった素材そのもののタイアップだけに限定し、それ以外のタイアップは数年前から廃止している。というのも、過去にはタイアップが行き過ぎた時期があり、「一部の生徒からクレームが出たからだ」(片岡カンパニープレジデント)。そこで代わりに力を入れ出したのが、生徒に害が無く、しかも直接的なメリットがある試供品の配布や料理教室での試食サービスだった。

 とはいえ、ABCは今後、メーカーから「復活」の要望が強いレシピ開発を通した食材タイアップを再開できないかどうか模索している。そのきっかけになりそうなのが、同じくこの5月から始めた「1dayレッスン」である。1回で完結する授業に限り、あらかじめ特定メーカーとのタイアップ授業であることを明記したうえで生徒を募集し、授業ではそのメーカーの食材を使ったレシピを生徒に教える。しかも授業の帰り際には、そのメーカーの試供品を渡すようにすれば、生徒は授業で習ったばかりのレシピを自宅で再現しやすくなり、メリットが大きい。それで料理が作れるようになれば、商品の購買につながる可能性が高まる。メーカーもタイアップ効果を得やすいと考えられる。