花王の青木寧執行役員人材開発部門統括(左)と井上直樹人材開発部門人材開発グループ部長
花王の青木寧執行役員人材開発部門統括(左)と井上直樹人材開発部門人材開発グループ部長

 花王は2009年度をめどに、国内と海外を合わせ400~500ある幹部ポスト向けの評価制度を刷新する。日本と海外で幹部人材の評価基準を統一し、国や地域を超えた「グローバル・コア・マネジャー人材」の適材適正配置を容易にする。いわば、多国籍企業へ脱皮を図るのである。

 ここで言う幹部人材は、主に部課長の上の部門長クラスを指す。優秀な部門長は5~10年後を目安に、経営幹部に昇進するケースが多い。

 花王の売上高海外比率は25%に達し、グループ3万3000人の従業員のうち1万人は海外にいる。グローバル化は進んでいるが、幹部人材の活用や育成に課題を感じていた。「今後の成長にグローバル展開は従来以上に不可欠。以前は日本の優秀な人材を海外拠点に送り込むための育成や評価の仕組みの整備に力を入れていたが、今は海外拠点で採用した現地人材も国内人材と同じ土俵で育成・評価する仕組みを作ろうとしている」と執行役員の青木寧人材開発部門統括は明かす。

理念と指針の明文化が契機

 2009年度から運用を始める予定のグローバル・コア・マネジャー向け評価制度は、(1)その人材が率いる組織のKPI(重要業績評価指標)の達成度、(2)その人材の個人KPI達成度、(3)リーダーシップ評価――の3項目から成る。

 最も特徴的なのは、リーダーシップ評価の中身。2004年10月に詳細に明文化した企業理念と行動指針の「花王ウェイ」を、リーダーとしてどれだけ体現できるかを問う。花王ウェイには「よきモノづくり」「絶えざる革新」「正道を歩む」「消費者起点」「現場主義」「個の尊重とチームワーク」など、同社のDNAと呼べるキーワードが並ぶ。

 また、組織KPIはEVA(経済付加価値)と売り上げと利益で構成、個人KPIにはバランス・スコアカードの概念を取り入れる。

 井上直樹人材開発グループ部長は、「グローバルに活躍するリーダーは数値成果を出すだけではだめ。どんな価値観を持ってメンバーを引っ張っていけるかも大切。花王ウェイが明文化されたので、当社のグローバルリーダーに必要な価値観が何かを整理できた」と語る。

 この言葉の背景には、同社の尾崎元規社長の次のような考えがある。「グローバルに大きくビジネスを展開するためには、確固たる理念が必要。(花王の競合となる)米P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)などは当然そうしたものを持っているはず。理念がないと、何千人、何万人という数の人は動かないし、企業の競争とは個性の磨き合いなのだ」

 実際、世界最大の消費材メーカーのP&Gは、グローバルに共通の理念と行動指針を持ち、その浸透に膨大なエネルギーを注ぐ。マネジャー職は、地域や国を超えた異動やプロジェクトへの参画の機会も多い。花王の今回の人事改革は、そうしたグローバル市場で先行する強豪との戦いを視野に入れたものである。