DMTを使った整備士の研修。12人が同時にシミュレーターを操作する
DMTを使った整備士の研修。12人が同時にシミュレーターを操作する
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 日本航空は2010年度までに機材の刷新を進めている。燃費効率の良い中型機を中心に65機を新たに導入し、大型機など46機を退役させる。これにより省燃費機材の比率を50%にまで引き上げる考えだ。

 そのためには整備士の育成が急務となる。整備士は機種ごとに国家資格を取得する必要があり、たとえベテランで他機種の資格を持っていても、当該機種の資格がなければ整備できない。2007年から導入している今後の主力機材、ボーイング737-800型機だけで、年間平均100人を養成し、2010年までに600人が整備できる体制を構築する必要がある。

 そこで導入したのが、DMT(デスクトップ・メンテナンス・トレーナー)というシステムである。実機で使用しているものと同じプログラムを使い、コンピューター画面上の計器やスイッチ、ヒューズボックスなど整備に使う機器を操作し、整備作業を忠実に再現する。日航によると、これまでの研修形態よりも一度に養成できる人数が増えるとともに、設備投資は10分の1で済むという。

 整備士の育成にはこれまでもシミュレーターを活用していたが、再現できる整備作業のパターンが限られていた。DMTの開発に取り組んだ整備訓練部訓練グループの山崎正秀教官は、「様々な不具合のパターンを学ぶために、テキストを使って配線図に蛍光ペンで印をつけて勉強することもあった。これでは実際の整備作業をイメージしにくかった」と話す。シミュレーターは高額であるため、1人が操作を体験できる時間にも制約があった。

 DMTの場合、各端末をネットワークでつなげば、12人が同時に受講できる。受講者は教官から与えられた様々な不具合パターンを仮想上で修理し、ノウハウを習得できる。大きな故障や火災など、実機ではシュミレーションできないようなトラブルも体験できる。「最新型の機材は数も少なく、研修に使える時間も短い。DMTならば、納得がいかなければ自分で何度でも復習できる」と山崎教官は話す。

 整備士の早期育成のために、日本航空がこだわったのが、整備作業を忠実に再現することだった。同様のシミュレーターは機体の製造元である米ボーイングにもある。だが、ボーイングのシミュレーターは代表的な不具合を再現するものでしかなかった。そのため約1300項目に及ぶ改良点を洗い出し、2年間かけて開発した。

 今年2月からは、乗務員が不具合時の対応を学ぶための研修にも利用している。また、実際に起こったトラブルを再現して、原因を検証するために活用することも検討している。