損害保険中堅の富士火災海上保険が、一般職から総合職に 転じた営業担当の女性社員に社内ブログの執筆を義務化して2年が経過した。この試みが、社員同士の情報共有、商品企画の部門への情報のフィードバックなどで効果を生み定着しつつある。

 この試みは、一般職の女性社員の職務拡大に応じて、実施したものだ。同社は2000年に、一般職の仕事の範囲を、事務処理から拡大し始めた。まず「AI(エージェント・インストラクター)」という職種を設置し、営業担当者を支援してもらうようにした。さらに今ではAIはルートセールスの一部も携わっている。大型代理店は総合職の営業担当者400人が回り、そのほかの代理店や富士火災の商品だけを扱う代理店はAIが担当している。

富士火災海上保険の「SAIブログ」画面。品川支店の田中明子氏のページ   富士火災海上保険の「SAIブログ」画面。品川支店の田中明子氏のページ
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 AIの職務範囲拡大につれて、教育体制の整備が課題になった。AIは現在全国に200人いるものの、支店に1~2人ずつしかいないためOJT(職場内訓練)を実施できない。

 そこで、同社が解決策として実施したのが、AIのなかでも、後輩への指導役たり得る人に「SAI(スーパー・エージェント・インストラクター)」という職種に就いてもらい、イントラネット上に「SAIブログ」を開き週に1回の執筆を義務づけることだった。SAIは2006年4月に総合職(勤務地は限定)を希望するAI向けに設置した職種で全国で17人だけだ。

首都圏第一本部品川支店の田中明子氏。「ほかの支店のSAIや本社の社員がコメントしてくれることも多く励みになる」とブログの意義を語る
首都圏第一本部品川支店の田中明子氏
「ほかの支店のSAIや本社の社員がコメントしてくれることも多く励みになる」とブログの意義を語る

 営業企画部の古性康之マネージャーはブログ開設の狙いについて「ほとんどのAIにはお手本になるSAIが自分の支店にいない。コンピテンシーの高い社員の仕事ぶりを見せたかった」と説明する。SAIは営業におけるノウハウや失敗談、ちょっとした気づき、好評だった販促ツールなどを惜しみなくブログで公開しているという。

 ブログは、現場視点による商品改善のアイデアを引き出す効果もあった。首都圏第一本部品川支店の田中明子氏はSAIの“第一期生”。2006年12月に、改正された保険の相続手続きが煩雑過ぎることをブログで指摘。顧客から厳しく非難されたことまで書き込んだところ、本社の商品開発部門の社員から即座に連絡があり、翌月には規定が見直された。田中氏は「商品開発の社員と接する機会は少ない。『こうすればよいのに』と業務について思うことをフィードバックできてうれしい」と話す。「業務改革のアイデアが書き込まれることがあるので、AIやSAI以外に本社の社員もブログを読んでいる」(古性氏)。

 ブログを通じて先輩たちの活躍を見るうちに、SAIそして管理職へというキャリアパスを志望するようになったAIも多いという。今後も女性の営業担当者を増やしていく方針の富士火災にとって、欠かせない制度として定着したようだ。