JTBグループは2008年1月,旅行商品を販売する支店の会計情報や顧客情報を管理するシステム「POPS」を刷新した。特徴は,Windows 2003 Serverが標準で搭載するシン・クライアント機能「WTS」(Windows ターミナル サービス)を採用した点。全国447カ所の支店に設置したクライアント・パソコン約6400台がアクセスする大規模システムで,初期投資コストは約30億円である。

写真1●システム構築を担当したJTB情報システムのグループIT推進室室長の野々垣典男執行役員(左)と,会計システム1部長/同2部長の伊藤博敏執行役員(右)
写真1●システム構築を担当したJTB情報システムのグループIT推進室室長の野々垣典男執行役員(左)と,会計システム1部長/同2部長の伊藤博敏執行役員(右)

 同社は今回の刷新により,これまで約30億円かかっていた年間運用コストを15億円に削減できる見込みである(図1)。旧システムではサーバーを分散配置していたので,RDBMS(データベース管理システム)のライセンスや保守だけで相当な費用がかかっていた。従来はRDBMSの「Oracle 8 Standard Edition」のライセンスを約330台分利用していたが,現在は「Oracle Database 10g Enterprise Edition」のライセンス10台分で済む。「この集約だけで年間1億円程度の削減効果があった」(JTB情報システム グループIT推進室室長の野々垣典男執行役員,写真1左)。30億円かかった初期投資コストも約2年で回収できる計算である。


図1●システム構成を見直すことで運用コストを年間15億円削減
図1●システム構成を見直すことで運用コストを年間15億円削減
会計システムにシン・クライアントを適用し,各支店に分散配置していたサーバーをセンターに集約した。システムの移行に約30億円かかったが,運用コストの削減効果により2年で回収できる見込みである。

分散配置で管理負荷が増大

 刷新の狙いは,TCOの削減。旧システムはC/S(クライアント/サーバー)型アプリケーションになっており,サーバーを各支店に分散配置していた。支店間で共有が必要な顧客情報だけはセンターで集中管理していたが,支店内に閉じた販売情報は,レスポンスを重視してそれぞれの支店で分散管理していた。

 このため,各支店のサーバー管理に大きな負荷がかかっていた。「機能の追加や修正が生じた場合は,約330ある全支店に対してアプリケーションの更新作業を実施する必要がある。運用管理ツールを利用してすべての作業をリモートから実施できるようにしてあったが,それでも相当な作業量になる」(JTB情報システム 会計システム1部長/会計システム2部長の伊藤博敏執行役員,写真1右)。さらにサーバーの死活状況を監視するだけでも大変な作業で,ハードウエアが故障した場合は保守要員を現地に派遣しなければならなかった。そこでサーバーをセンターに集約することで運用コストを削減することにした。

 検討を開始したのは2005年1月。当初はシステムをWebブラウザから利用することも検討した。だが,既存のアプリケーションをWeb化すると操作性が悪くなることが懸念される。リッチ・クライアントを使って操作性を高める方法もあるが,「別システムで導入した際にバージョン管理などで苦労した経験がある」(伊藤執行役員)。またアプリケーションやサーバーの全面的な再構築が必要になり,初期投資コストもかさむ。

 そこで浮上した案が,シン・クライアントの仕組みを活用する方法だ。各支店に分散配置したサーバーをセンター側に集約し,クライアント・アプリケーションはWTSサーバー上で実行させる。このような構成にすれば,機能の追加・変更からトラブル対応にいたるまで,センター側で対処できる。既存のアプリケーションをそのまま移行するので操作性が問題になることもない。初期投資コストもWeb化に比べて安く済む。

単一アプリなので画面転送型で十分

 シン・クライアントの実現方式は画面転送型に即決した。ほかにもネットワーク・ブート型ブレードPC型仮想PC型が存在するが,今回は「単一のアプリケーションをシン・クライアント化するだけだったので画面転送型で十分だった」(伊藤執行役員)。クライアント・パソコンは現在使っているパソコンをそのまま利用するので「専用端末」も不要である。製品の選択肢は,WindowsのWTSと米シトリックス・システムズの「MetaFrame」(検討当時。現在は「Citrix XenApp」)の二つに絞られた。

 両製品とも同社の別のシステムで採用実績があり,導入コストと必要な機能をてんびんにかけた結果,最終的にWTSを採用した。

 MetaFrame(当時)は高機能だが,その分導入コストが高くなる。「当初はWTSでどこまで実現できるのか不安な面もあったが,WTSも機能強化が進んでいる。今回はMetaFrameの機能までは不要で,WTSで問題ないと判断した」(伊藤執行役員)。

 2005年4月にWTSを使った構成を決定し,2005年9月には役員会議で正式なゴー・サインが出た。