日本で最初にスーパーマーケットの24時間営業に乗り出した。以来、オペレーションに磨きをかけながら14年連続での増益を見込む。深夜の時間帯を商品の搬入や清掃に充てるのが特徴だ。中国地方の一部にだけ集中的に出店する戦略で効率化を実現。今後は大型店舗に注力して売上高1000億円を目指す。

 広島県福山市に13年も前に24時間営業のスーパーマーケットを開いた企業がある。2008年2月期に20年連続増収の売上高575億円、14年連続増益の経常利益19億円を見込んでいるハローズだ。当時は深夜営業こそ珍しくなかったものの24時間営業のオペレーションを確立しているスーパーチェーンは国内に無かった。ましてや夜間人口の多い大都市とはいえない地方での取り組み。にもかかわらず、現在福山市と岡山県南部を中心に36店舗を構える一大勢力となっている。13年も前になぜこの地に24時間営業スーパーという業態を根づかせようとしたのか。

●ハローズの会社概要
●ハローズの会社概要

ハワイ研修でオペレーション学ぶ

 「きっかけは、24時間営業のオペレーションを既に作り上げていた米セーフウェイについての雑誌記事を読んだことだった」と佐藤利行社長は振り返る。そのころは、ボックスストアと呼ばれる簡素な内装の店舗で低価格販売を行う業態に乗り出したものの業績は芳しくなかった。

 佐藤社長は数人の社員に24時間営業の業態について調べるように命じた。さらに毎年恒例となっている新入社員対象のハワイ研修にその社員らを連れて行き、現地で視察。バックヤードも見せてもらい、オペレーションを学んだ。帰国後、まずは福山市内の引野店で実験を始めた。

 店舗を24時間営業に切り替えるデメリットは、コスト増に尽きる。多くの売り上げを見込めない深夜の時間帯にも人員を配置しなければならない。しかも深夜業務(午後10時から午前5時)は労働基準法で25%以上の割増賃金を払わなければならない。

 一般的に深夜営業に踏み切る場合、日中に来る客とは異なる層を取り込めるか、顧客の平均来店回数を引き上げる算段がつかないと実行はしない。そのうえでコストを抑えたオペレーションを確立できるか、が決め手となる。もちろん両方であることに越したことはない。だが、ハローズの事情は少し異なった。

1日6回の搬入のうち4回が夜間

 それまで深夜0時に閉店していた引野店を24時間営業にしても残念ながら深夜には多くの集客はなかった。その代わり、夜8時ごろから0時過ぎまでの時間帯に来る客が激増した。24時間営業という看板が、他店で夜間に買い物をしていた客を引き寄せた。ハローズは全店舗での展開を決めた。「閉店時間を気にしながら買い物をするのは落ち着かない」「閉店間際では品ぞろえが悪いのではないか」といった考えを持った客は自然と競合店からハローズに流れる。

ドライ商品の搬入と夜間業務では改善プロジェクトが組まれている
ドライ商品の搬入と夜間業務では改善プロジェクトが組まれている

 せっかく24時間営業に踏み切るのだから、深夜の時間帯でも売り上げ増を狙おう、というのが一般的な考え方だとしたら同社は逆張り。都会と違って深夜客を増やそうとしても無理がある。24時間売り続けるのではなく、昼間にたくさん売るために夜はその準備時間に充てたのだ。

 グロサリーやデイリーと呼ばれる非生鮮食品の補充は夜間に集中させた。1日に6回の配送センターからの搬入も4回までが夜間だ。通路に商品を並べたり、陳列棚の前に店員が立ってしまったりするデイリー商品などの補充は、顧客がほとんどいない間に済ませている。清掃も深夜だ。

 大規模の店でも深夜1時にはレジに店員は常駐していない。店員は商品陳列の合い間にレジに立つ。生鮮食品こそ鮮度が大切なために、来店客数が多い朝から夕方に搬入・陳列される。こうして日中に生鮮食品、夜間にグロサリー・デイリーの搬入・陳列と清掃というシフトを組んだことが24時間営業を軌道に乗せる大きなポイントになった。

●夜間に陳列と清掃を集中させることで顧客の利便性を上げた
●夜間に陳列と清掃を集中させることで顧客の利便性を上げた
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 2005年からはナイト部門と呼ばれる夜間のシフトの人員構成を変化させた。従来、夜間は一店につき2人の正社員と5~6人のパート社員が働いていたが、正社員の代わりに嘱託社員と呼ばれる50代、60代の従業員を充てるようにした。ナイトマネージャーと呼ばれる正社員は数店舗を1人で管轄する。この取り組みで夜間に働く正社員の比率は下がり、最大で年間およそ4500万円が経費削減につながるという。

 さらにハローズの出店計画も24時間営業を成り立たせるローコスト経営と無縁ではない。店舗を福山市と岡山県南部に集中させている、ドミナント戦略だ。店舗が7つある物流拠点からいずれも近隣にあるため配送コストが低い。2010年4月には岡山県早島町に同社としては最大規模の物流センターを設ける予定だ。四国、関西方面への足がかりになるだろう。

 ドミナント戦略は広告宣伝の面でも効果はある。スーパーの販促では、近隣の住宅に配るチラシが果たす役割は大きい。同社の場合、店舗同士が密接しているため配布量が同業と比べて格段と少なくて済むのだという。