「当社の化学品カンパニーは、大口顧客の多い自動車カンパニーと違って、何千社もの法人顧客を持つ。このため顧客満足度(CS)を測るには時間も手間もかかる。そこでタンクローリーで製品を運んでもらう物流会社に相談し、乗務員がアンケート用紙を納品先に手渡し、その場で回答してもらうようにした。まず2005年8月にローリー輸送会社15社と共同で約600社のCSを調査。翌年10月はトラック輸送会社12社と連携して390社を調べた。2007年は再びタンクローリー会社と共同調査した」。

AGC化学品カンパニーCSR室の小川孝生QMS統括グループリーダー
AGC化学品カンパニーCSR室の小川孝生QMS統括グループリーダー

 こう明かすのは、旭硝子のAGC化学品カンパニーCSR室の小川孝生QMS統括グループリーダーだ。顧客の声(VOC=ボイス・オブ・カスタマー)を聞いて回り、要望や不満を日々の業務の改善に結びつける。そんな旭硝子の活動「CS(顧客満足)の視点を日々の仕事に入れ込む」は興味深い。旭硝子のようなVOC起点の改善活動を実施する企業は少なくないだろうが、大半は一般消費者を顧客とする企業だからだ。旭硝子の顧客のほとんどは法人。「取引先である化学品メーカーからは、トップが自ら動いてこうした活動を徹底するのは珍しいですね、とよく言われる」と、小川グループリーダーは説明する。

 化学品カンパニーでは2004年度以降、同部門に対する満足度を向上させるための意見をもらうためだけに、カンパニー長が主要顧客を頻繁に訪問するようになった。営業担当者は同伴させず、純粋にCSの話だけをする。この活動を始める前は、カンパニー長が行動することの費用対効果を気にする声もあった。だが始めてみると、トップ同士の会話だけに業績への貢献もきちんと見られた。多くの顧客企業が、価格よりも安定供給を重視していることがわかったのだ。「化学品カンパニーは一時、50億円近い赤字だったが、いまは安定的に利益を出している。そこにCS活動が間違いなく貢献している」(小川グループリーダー) 

8ステップの行動原則を規定

 冒頭の物流会社とタッグを組んでVOCを集める施策は、納入先である顧客企業の担当者に目の前でアンケートに回答してもらうことによって、乗務員の仕事ぶりの振り返りにもつながる。アンケートに記載された項目は、製品そのものについての質問だけでなく、安全に細心の注意を払いながら納品しているか、その様子を安心して見ていられるか、安全用のゴーグルをきちんと着用していたか、など乗務員の仕事ぶりに関する質問も多数含まれているからだ。また旭硝子の物流プロセス担当者は、調査から明らかになった不平や不満、要望、期待の声を営業担当者や輸送会社と一緒になって解決・フォローし、旭硝子の各工場の物流プロセス責任者が集まる会議でその改善点の有効性を確認している。

 旭硝子が「CSが重要だ」という方針を強く打ち出したのは2004年4月のこと。きっかけは、1999年12月に起こった新幹線の窓の破損問題までさかのぼる。この問題の後、旭硝子は製品やサービスの品質を重視する方針を社内外に対して宣言。品質向上推進本部(現・品質向上推進室)を設置し、製品やサービスの品質を維持・向上させる仕組みを試行錯誤していくうちに、「日々の一つひとつの仕事の質を高める努力をし、それをお客様に評価してもらうことが最も有効な手だてだ、という結論に達した」(品質向上推進室長の河面徹執行役員)。こうして2004年4月、CEO(最高経営責任者)である門松正宏社長が「CSの視点を日々の仕事に入れ込む活動を始めよう」と宣言したのである。

品質向上推進室長の河面徹執行役員
品質向上推進室長の河面徹執行役員

 活動開始宣言を受けて、8ステップからなる行動原則を規定した。要約すると、社員1人ひとりが自分のお客様が誰かを認識し、お客様に提供している価値をお客様視点で明確にする。こうして自分が提供できる最高の価値を実際に提供し、その結果をお客様に評価してもらい、その評価に基づいて日々の仕事のやり方を改善していく。つまり、顧客の声(VOC)を使って個々の業務改善を促すわけだ。

 こうしたVOCベースの行動を社内に浸透させるべく、旭硝子の各カンパニーのトップはこの行動指針を率先垂範。また、品質向上推進室は定期的に各カンパニーの顧客とのコミュニケーションの成熟度合いを査定し、それを門松社長に報告している。

 品質向上推進室は、ミドルマネジャーや一般社員向けには「CSの視点を日々の仕事に入れ込むセミナー」を提供。昨夏までに約1400人が受講した。このセミナーは、部署単位で実施したり、経営人材開発や技術・技能人材育成、内部監査員研修など他の教育プログラムの一部に組み込んだりしている。同セミナーでは、専用ワークシートを活用して自分の仕事をお客様視点で細かく分析。実際にお客様にインタビューし、その評価結果をグループディスカッションでもんで、自身の行動変革目標を設定する。セミナー受講後の約3カ月間にわたり、イントラネットを活用して、行動変革目標に対する達成度合いを定期的に振り返るようにしている。

■変更履歴
第1段落の最後の文章を一部修正しました。[2008/02/22 14:00]