止まったら、改善するまで待つ

 計画順序生産の体制をまず30分間、次に1時間とだんだんと時間を延ばしてきた。そのために、塗装ラインが止まったら課題を探すまで待つことにした。課題をつぶしていくには、「全員が改善活動への参加意識を高めることが重要だった」と第1塗装課増田富哉マネージャーは振り返る。「なぜなぜシート」と名付けた、課題を解決するために用意した定型的な用紙とともに、「からくり道場」と呼ぶ道具づくりの場を用意した。

 なぜなぜシートには、あぶり出した改善点に対して不具合が出ないように原因を絞り込んで良品となる条件を決めてきた。塗装を噴きつけるノズルの圧力や角度を微調整するといったことである。

 からくり道場とは、お金をかけずに知恵と工夫で改善できる人材の育成を目指すものである。例えば塗装する際に、複数あるノズルの取り間違いを防ぐために、必要なノズルだけが作業者の手元に出る仕掛けを作った。これらの取り組みにより、組立ラインの前で待つ30~50台分の仕掛かり在庫をなくせるようになった。

 ボトルネックだった塗装工程を改善したことで、2003年からは計画順序生産に向けてほかの工程や部品メーカーと情報連携の強化に取り組み始めた。組立ラインで車両が流れる順番を各部門で共有し、部品を供給する各部門が必要な量だけを製造することで、仕掛かり在庫の削減を目指した。

 具体的な情報の流れはこうだ。販売店が立てた販売計画を営業部門が月次でまとめて生産部門に渡す。生産部門は、組立日の5日前に生産計画を確定する。ここまでをJUMPと呼ぶシステムでやりとりする。生産計画が確定したらエンジンといった部品を内製する工程や部品メーカーへ、SSOR(Scheduled Sequence Order Release)という情報共有システムを介して送信する。

 この時点で組立ラインにどの順番で流すのかも確定し、部品メーカーなどへ伝える。情報を受け取った部品メーカーは、組み立て日に向けて当日に必要な量だけを生産する。部品メーカーは、情報を受信してから5日後の組み立て日に、ラインに流す順番に並べた状態で納入する。部品メーカーも組立ラインが必要な量だけを製造できる。

●計画順序生産により、1台ずつ異なる車種を生産できる工程を確立
●計画順序生産により、1台ずつ異なる車種を生産できる工程を確立
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3割の部品が計画順序生産に

 計画順序生産に対応することで、部品メーカーの効果も出始めている。計画順序生産に対応する部品メーカーは、4年間で12社166部品まで拡大。これは部品点数のうち3割を占める。3割とはいえ大型部品を中心に取り組んできたため、在庫削減効果は大きい。

 例えば、インストゥルメントパネルという内装部品を製造する西川化成(広島市)は、計画順序生産に取り組むことによって、在庫を10分の1にまで減らせたという。ほかにも、ドアミラーを製造する石崎本店(広島市)も同様に計画順序生産に取り組んだことで、在庫を78%減らした。

 これら部品メーカーの取り組みには、マツダから人材を送り込み、指導に当たった。生産管理・物流企画部の渋下信明主幹は「マツダと同じ改善力を持ってもらわないと全体の改善が進まない」と部品メーカーとタッグを組んで取り組む狙いを話す。本社工場内で内製するエンジンの工程でも、72%の在庫を削減できた。在庫置き場だった所に空きスペースができたことで、将来、新車種を出した場合の新しい部品置き場にすることを検討している。

からくり改善による成果。車体を流れるアームの動力を活用して、部品も一緒に動かす(上)。各部門には道場を設置して指導に当たる(右)
からくり改善による成果。車体を流れるアームの動力を活用して、部品も一緒に動かす(上)。各部門には道場を設置して指導に当たる(右)

 さらに、物流にもメスを入れた。計画順序生産を導入するのに当たり、2003年からミルクラン方式を導入した。同方式は、部品メーカーがマツダに届けるのではなく、マツダが用意したトラックが巡回して納入部品を取りに行くものだ。工場のある広島地区だけでなく、九州地区でも導入している。1日4~16回と納入回数は変わらないものの、トラックをマツダで用意するため部品メーカーはトラックを手配する手間が省ける。マツダにとってみれば、物流費と材料費を分けて把握できるため、コスト分析がより正確になる。

 今年4月に中部地区にもミルクラン方式を導入するとともに、名古屋と広島間で鉄道貨物輸送を活用したモーダルシフトを採用している。トラックに比べて定時性に優れているため、計画順序生産をより確実なものにするためだ。

 これで計画順序生産は完成ではない。まだ対応しきれていない機械加工など前工程への展開が残っている。これらが対応を進めることで、1台ずつの完全受注生産への移行を目指したい考えだ。