神戸市に本社を置く兵神装備は産業用ポンプを開発・販売するメーカーである。同社の製品を使えば,水のような液体はもちろん,ハチミツなどの粘度の高い液体,さらには粉状の物質まで,ポンプによるパイプ移送が可能になる。化学業界や食品業界など,多くの分野で同社製品が使われている。

 兵神装備は2007年夏に本社と全国6カ所にある全拠点の内線電話網を刷新した(図1)。従来のPBX(構内交換機)によるシステムから,IP電話システムへ移行。SIP(session initiation protocol)サーバーとして沖電気工業の「IP CONVERGENCE Server SS9100」(以下SS9100)を採用した。端末はNTTドコモの携帯/無線LANデュアル端末「N902iL」を160台配布。部署の代表電話として,固定IP電話機も導入した。

図1●兵神装備の社内ネットワーク構成
図1●兵神装備の社内ネットワーク構成
データ通信用と音声(VoIP)用でLANとWANを分離。WANは相互にバックアップする構成を採用した。
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デュアル携帯でプレゼンス活用

写真1●N902iLの導入を担当した兵神装備営業部営業推進第2グループの前田勝幹チームリーダー(左)と,総務部BP開発グループの伊藤良輝チームリーダー
写真1●N902iLの導入を担当した兵神装備営業部営業推進第2グループの前田勝幹チームリーダー(左)と,総務部BP開発グループの伊藤良輝チームリーダー

 兵神装備では長年利用していたPBXが老朽化してきたので,2004年ころから刷新の必要性を感じていた。刷新に当たり重視したのが,「電話の取り次ぎを減らせる」(兵神装備 総務部BP開発グループの伊藤良輝チームリーダー,写真1右)こと。電話の取り次ぎで発生する時間と思考の中断を削減することで,業務効率向上を支援するのが目的である。

 兵神装備は,取り次ぎを減らすために,(1)内外線問わず従業員に直接電話がかかるようにする,(2)従業員が移動しても連絡を取れるようにする,(3)内線電話をかける前に相手がどこにいるのか分かるようにする──の3機能を満たすシステムを求めた。

 同社は滋賀県の工場で構内PHSを使っていた。構内PHSによって電話の取り次ぎが減ることを確認していたため,携帯型端末が(1)と(2)を満たすことは明らかだった。

 一方,(3)の実現のためには在席状況を確認するためのプレゼンス・システムの導入が必要だった。相手の在席状況が分かれば,相手が出られないときに電話をかけるといった無駄を省ける。検討を重ねた結果,(1)~(3)をすべて満たすシステムとして,N902iLを使った無線IP電話システムを導入した。

音声専用のLAN/WANを構築

 兵神装備は,IP電話サーバーとなるSS9100をデータ・センターに設置する。各拠点には,N902iL専用となる無線LANアクセス・ポイント(AP)を取り付けた。APの台数は本社が21台,各拠点が1~4台である。

 有線のLANとWANも音声(N902iLと固定IP電話機)専用の回線を導入し,データ系と音声系のLAN/WANを完全に分離した。データと音声がネットワーク上で混在しないため,音声通信に対してQoS(quality of service)を適用する必要はなかった。「当初は一つのWANにデータと音声の両方を載せようかとも考えたが,WAN回線の料金がかなり安くなったので二つに分けることにした」(伊藤チームリーダー)。

 LANについても「従来から導入しているLANはハブなどの機器が古い。そのLANに音声を載せるより,もう一つ音声専用のLANを敷設した方がシンプルで楽」(同氏)だった。

 各拠点からWAN網につながるアクセス回線は主にBフレッツを使う。WANは音声用とデータ通信用回線が相互にバックアップするように設定した。外線電話としては050番号が使えるケイ・オプティコムのIP電話サービス「eo光電話」を利用する。

写真2●N902iLから他の従業員のプレゼンス(在席状況)を確認できる
写真2●N902iLから他の従業員のプレゼンス(在席状況)を確認できる

 プレゼンス・システムは沖電気のコミュニケーション・ツールである「Com@WILLアシスタント」を採用した(写真2)。N902iLやWebブラウザから他のN902iLを使うユーザーの在席状況と位置を確認できる。位置情報はN902iLが通信するAPの設置場所から自動取得する。具体的には,「神戸本4F会議室」といった表示になる。「会議室」と表示されれば相手が会議中と判断できるため,電話をかけるのを待つといった行動を取れる。

 同社が導入したN902iLは,半数がNTTドコモと回線契約をしていない「白ロム」である。個人への着信を実現するため,N902iLには内線番号のほか,着信用外線番号として050番号を割り当てた。外出の多い営業担当者には,回線契約済みで080/090番号も持つ「黒ロム」のN902iLを配布した。

 N902iLの導入時は,各現場の従業員で構成する“運用チーム”を作った。このチームが運用ルールを策定し,社内教育を担当したため,運用上のトラブルはないという。

構内PHSもN902iLへ移行予定

 兵神装備はN902iLの導入効果を実感している。「少なくとも私のいる部屋では従業員間の内線電話の取り次ぎはほぼゼロになった」(伊藤チームリーダー)。さらに,050番号で直接端末にかけてくる人が増えているので,外線の取り次ぎも減ったという。

 加えて,通信費も削減できた。同社はこれまで本社と滋賀工場,東京,大阪の4拠点をフレーム・リレー網で接続し,内線電話回線として利用していた。今回はこれを廃止し,全社的にIP網へ移行。通信コストを削減した。

 今後,兵神装備は滋賀工場に残るPBXと構内PHSのシステムをN902iLに置き換える計画だ。2008年度中に実施する予定である。

ここがポイント

目的:内線電話システムの刷新

機器:NTTドコモの「N902iL」を採用

構築期間:2007年7月~8月

効果:内線電話の取り次ぎはほぼゼロへ。社員の業務効率が向上

●会社・プロフィール
業種: 産業用ポンプメーカー
本社: 兵庫県神戸市
拠点数: 7カ所
売上高: 98億円(06年12月期)
従業員数: 270名

●ネットワーク・プロフィール
3面のWAN網を使いIPセントレックス・システムを構築。端末はN902iL。音声とデータ通信でLAN/WANともに分離させた。プレゼンス・システムも導入した。