遠隔削除や遠隔ロックは自社開発
サッポロビールは,これらのシステムの導入に際し,まずは携帯電話プラットフォームの選定に着手した。選定当初はNTTドコモの「ビジネスFOMA」が最有力候補だったが,通信エリアの広さとBREWアプリケーションの開発の容易さが評価され,KDDIに決定した。
モバイル・システムを構築する際,同社が最もこだわったのは,端末を紛失した際に第三者による不正利用や情報漏えいを防ぐためのセキュリティの強化である。
今でこそ,NTTドコモの「ビジネスmoperaあんしんマネージャー」やソフトバンクモバイルの「安心遠隔ロック」など,遠隔地から携帯電話の操作をロックしたり,電話帳データの消去を実行できるキャリア型サービスは充実している。しかしこれらのシステムを検討し始めた2005年後半には,KDDIの「ビジネス便利パック」しか同社の要望にかなうサービスがなかった。KDDIのサービスでさえ,当時は機能や機種が限定されており物足りなさがあった。
そこでサッポロビールは,端末内に保存したデータの暗号化や遠隔からのデータ消去,アプリケーションのリモート・ロックなどの機能を,自社開発することにした(図2)。これらの開発を可能にしたのが,NRIのミドルウエア製品である「オブジェクトワークス/Mobile」である(図3)。
図2●サッポロビールが実施したモバイル・システムにおける各種セキュリティ対策 大きく分けて4種類の方法による対策を実施している。 |
図3●サッポロビールのモバイル・システムの開発環境と実行環境 [画像のクリックで拡大表示] |
2005年に発売されたオブジェクトワークス/Mobileは,サーバー上で動くミドルウエアやBREW携帯電話上で動くランタイムなどで構成する。携帯電話と密に連携できるサーバー・アプリケーションの開発が容易だった。
アプリ操作中の着信処理に工夫
アプリケーションの操作性の高さも,セキュリティ強化と並んで同社が重要視したポイントである(写真2)。
写真2●BREWアプリケーションの画面の一例 [画像のクリックで拡大表示] |
マーケティング・スタッフにはパソコンに不慣れなスタッフもいるため,,複雑な操作は無用な混乱を引き起こしかねない。また,以前のPDAによるモバイル・システムでは,通信状況によってアプリケーションのレスポンスが左右されるため,利用者のストレスとなっていた。
そこで新システムでは,(1)日報などの登録はオフラインで作業,(2)直感的に分かるユーザー・インタフェースを採用,(3)最初に実装するのは業務上最低限必要な機能──の3点をアプリケーション開発の柱に据えた。
開発は大きなトラブルなく順調に進んだが,通常のWebシステムとは異なる携帯電話ならではの対策が必要となった。業務アプリケーションの操作中に通話が発生すると,業務アプリケーションの処理が終了してしまったのだ。そこでサッポロビールでは通話など優先度の高い処理が入った場合は,いったん業務アプリケーションのデータを保存するため,サスペンド/レジュームができる仕様にした。これなら通話終了後に,再びアプリケーションの操作を引き継げるからだ。
「シンプルな端末が扱いやすい」
フィールド・スタッフが使うBREW携帯電話は導入してからまもなく2年が経過する。BREW対応であれば端末の機種は問わないものの,Windows Mobile搭載機などと比較すると,業務端末としては見劣りする。しかし,同社は新端末への切り替えには慎重だ。
岡田課長代理は「フィールド・スタッフ向けシステムは,電話やメールといった機能のほかに,業務情報端末として最低限使える機能があればよい」と説明。続けて「極端なことを言えば,インターネット接続機能もオフにしたいぐらい。画面の表示サイズが限られている以上,企業にとってはあれこれ余計な機能が搭載されていない端末の方が使いやすい」という。
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