写真1●サッポロビール ITソリューション部の岡田直樹課長代理(左),中西弘幸マネージャー(右)
写真1●サッポロビール ITソリューション部の岡田直樹課長代理(左),中西弘幸マネージャー(右)

 サッポロビールは2006~2007年にかけて,携帯電話を業務端末として活用するモバイル・システムを構築した。店舗や飲食店を訪問する約950人のフィールド・スタッフが,KDDIのBREW対応携帯電話機を情報入力・閲覧に利用する。フィールド・スタッフは,出先からその日の活動状況や現場情報を入力・送信できるほか,営業担当者からのフィードバックを即座に反映する仕組みも整えた。設計と開発は野村総合研究所(NRI)が担当した。

 サッポロビール ITソリューション部の中西弘幸マネージャーは「これまではシステムの利用者から(システムを)賞賛されることはほとんどなかったが,携帯電話を活用したモバイル・システムは現場の利用者から『大変助かっている』という報告を何件ももらった」と喜ぶ(写真1)。

従来はPDAと紙で日報作成

 同社が携帯電話を情報端末とするモバイル環境を構築した理由として,フィールド・スタッフを支援する体制が不十分だったことが挙げられる。

 スーパーマーケットなどに出向いてビールの拡販などを手伝う「マーケティング・スタッフ」は,日報の作成などのために2000年からPDA(携帯情報端末)を使っていた。しかし配布されたPDAの手書き文字認識精度は悪く,日報の入力に多大な時間を要した。さらにそのPDAは通信機能を内蔵せず,自宅の加入電話や出先の公衆電話につないで通信しなければならなかった。このため入力した情報をその場ですぐに送信できず,日誌をため込む原因となっていた。

 最近ではNTT東西のIP電話サービス「ひかり電話」を契約するユーザーも多いが,これも足かせとなった。「配布したPDAはひかり電話に未対応。スタッフには『自宅にひかり電話を入れないように』と指示することもあった」(中西マネージャー)という。

 一方,樽生ビールを取り扱う飲食店を訪問して生ビールの品質維持に取り組む「ドラフト・スタッフ」は,手書きで報告書を作成していた。報告書の送信にはファクシミリを利用し,それを受信した内勤担当者がファクシミリの内容をパソコンに入力していた。そのため「社内システムに情報が反映されるまでに1カ月を要することもあった」(岡田直樹課長代理)という。

 競争が厳しいビール業界にとって,販売の最前線であるフィールド・スタッフからの情報は重要である。そこで2005年後半,携帯電話を情報端末として活用するモバイル・システムの構築に乗り出した。

モバイルと基幹システムが連携

 サッポロビールが導入したモバイル・システムは2種類ある(図1)。約500人のマーケティング・スタッフのための「MSPモバイル」と,約350人のドラフト・スタッフのための「ドラフトナビ」である。

図1●サッポロビールが導入した携帯電話を情報端末として活用するモバイル・システム
図1●サッポロビールが導入した携帯電話を情報端末として活用するモバイル・システム
このシステムは,マーケティング・スタッフなどのための「MSPモバイル」と,ドラフト・スタッフのための「ドラフトナビ」の2種類がある。
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 マーケティング・スタッフとドラフト・スタッフの業務内容や回訪店舗などは異なるが,両システムが提供する機能はよく似ている。MSPモバイルでは日報登録や鮮度調査結果登録,店舗情報検索を,ドラフトナビでは日報登録,回訪予定検索(スケジュール),店舗情報検索機能が提供される。

 これらの機能を使って登録されたデータは,KDDIの携帯電話網を通じて,NRIが運営するデータ・センターに設置された「フィールド・スタッフ情報活用基盤サーバー」に配信される。このサーバーはサッポロビールの基幹システムと接続しており,給与システムや交通費精算システムと連動。携帯電話からの申請で自動的に給与支払いに反映されるようになっているという。

 MSPモバイルは2006年1月,ドラフトナビは2006年7月に稼働を開始した。MSPモバイルはその後2007年4月から利用者の対象範囲を広げており,大型店舗の売り場作りを手掛ける約100人の「ストア・プロモータ」も活用している。