制御機器などファクトリーオートメーション(FA)機器の専門商社。創業当時から修理などを手がけるうちに自ら開発拠点を持つようになる。技術力が認められて、トヨタ自動車のサプライヤー組織「栄豊会」に加盟。商社不要論を払しょくすべくコンサルティング能力を磨き、物流も改革。念願の上場を果たし、日本企業のものづくりを世界レベルで支える。

 愛知県の渥美半島にあるトヨタ自動車・田原工場。同工場のレクサス専用ラインには日本の最先端の製造技術が結集されているといっても過言ではない。そのうちの1つが、ボディーパネルとドアのすき間を自動で測定する装置。測定値は即座にその傾向が分析されてボディー溶接工程に戻される。高精度の溶接に欠かせない。開発したのは名古屋市に本社を構える明治電機工業だ。

 といっても計測機器メーカーではない。制御機器、産業機器、計測機器といった工場のラインで活躍する装置を取り扱う商社だ。ただし500人弱の社員のうち200人がエンジニアなどの技術系。そのうち1割に当たる20人は米国や中国、フランス、スペイン、南アフリカなどへ赴いている。トヨタやデンソーの拠点で工場や生産ラインの立ち上げ、現地での装置の調整を行うためだ。

 “工場”も持っている。顧客が生産ラインの改善で困っているとする。その解決ツールが仕入先にない場合、自社で開発してしまうのだ。冒頭の自動測定装置のほか、これまでに車載ECU(電子制御ユニット)標準検査装置や基板クリーナーといった装置もこの工場で開発してきた。

 トヨタと共同開発した、生産支援システム「e-p@k」もそうした製品の1つ。ラインに備え付けると、設備の停止時間や治具交換時間を正解に把握でき、問題工程を簡単に発見できる。e-p@kは、トヨタ生産方式のアンドン(異常や不具合を知らせるもの)を表示する制御盤の情報を収集するものだ。トヨタ流のカイゼンの根幹にかかわる。トヨタの工場に入ってものづくりを熟知した社員がいなければ生まれなかった。2002年の発売以来、トヨタグループに2000台以上を納めてきたが、最新バージョンではさらに改良を加えて汎用性を高めた。今後はほかの自動車メーカーにも売り込む予定だ。

●明治電機工業の会社概要
●明治電機工業の会社概要

危機感をバネに新たな成長

 単なる専門商社とはいえない業務の広さで成長を続けている明治電機。2008年3月期の連結売上高は621億4000万円、経常利益は29億2600万円で増収増益を見込む。2005年10月にジャスダックへの上場を果たした。会社の設立は1920年。モーター修理から始まり、電気機器を扱う商社へと業容を拡大していった。粗利率の低い販売だけでなくアフターサービスも手がけようと現在の工場を持つようになった。

 仕入先の数は現在約2000社。販売先である顧客の数も約2000社。「トヨタグループなど、ものづくりにこだわりを持った企業と付き合うなかでQCD(品質、コスト、納期)が鍛えられた」と安井善宏社長は言う。商社として確固たる地位を築いてきた明治電機が危機感を持ったのは1990年代の終わり。インターネットの普及から「商社不要論」が一層叫ばれるようになった。

明治電機工業の“工場”でもあるエンジニアリング事業本部。本社から30分ほどの愛知県知立市にある。商社ながら設計開発、製造の担当者が常駐する。本部長の小原正常務執行役員はトヨタ自動車OB
明治電機工業の“工場”でもあるエンジニアリング事業本部。本社から30分ほどの愛知県知立市にある。商社ながら設計開発、製造の担当者が常駐する。本部長の小原正常務執行役員はトヨタ自動車OB

 92年に社長に就任していた安井氏は、社内で最も強く危機感を抱き、専門商社のあるべき姿を模索した1人だ。単品販売から複数の製品を組み合わせてライン全体のあり方を提案する営業へのシフトを指示。頼まれた製品を納期までに届けるだけではうまみは少ないし、差異化は難しい。顧客のものづくりに踏み込んだ、コンサルティングやエンジニアリングは「商社不要論を有用論に変える生き残り策だった」(安井社長)。

 そのためには仕入先の製品に詳しい営業担当者だけでは足りない。顧客の工場に出向いたりラインの設計をしたり、具体的な改善案を提示したり、エンジニアリングに長けた社員を増やす必要があった。意識的に技術者の採用数を増やしていった結果、10年かけて営業担当者と技術者の数は200人ずつでほぼ同じという陣容が整った。

 今年4月には2年がかりで構築したナレッジマネジメントシステム「ものづくりかるた」をイントラネット上で本格的に稼働させた。優れたアプリケーションやシステムの事例が産業分野や商品ジャンル、部門別に整理されている。各事例には社外のイラストレーターによる分かりやすい図解も付いている。

 かるたには1件ごとに「表」と「裏」が存在する。印刷可能な表ページには、図解のほかに概要や導入効果が記されており、裏ページは印刷不可で具体的なシステムの構成や納入先の情報が記載されている。

 前者は営業担当者が商談に使い、後者は技術者同士が部門を越えてナレッジを共有するものだ。ものづくりかるたと連動して若手社員を対象にした教育制度もスタートさせた。「入社3年目の社員でもベテランと同じように営業できる体制を作る」と発案者の安井社長は意気込む。

 同じく今年4月からはこれまで設備や仕入先メーカーごとに分かれていた営業組織を、販売先の業種ごとにくくり直し始めた。以前は、実装機器や電源機器といったように商品ジャンルで組織を分けており、各営業担当者は特定メーカーの商品やジャンルの商品を売っていた。

 しかし、1つの生産ラインには明治電機が取り扱う様々な商品が使われている。工場の省力化が進むほどそういった傾向は当然強くなる。1つのラインに10以上の機器が備え付けられていたとして、各営業担当者が同じ顧客にばらばらにアプローチしていれば無駄も多くなる。システムで提案していくためには業種ごとに特化した部署を作るのが望ましいというわけだ。第1弾として今年4月に発足したのは自動車業界向け。今後はセラミック、電気・電子、機械など順次展開するという。

成功体験を横展開

 コンサルティング営業への舵を切る一方で本業の商社機能における物流体制にもメスを入れてきた。従来、全国9つの営業支店がそれぞれ倉庫とトラックを所有し、仕入れから在庫、配送まで担当していた。各拠点の倉庫を無くしてオムロンと物流センターの共有に踏み切り、配送作業も外部に委託した。在庫や配送は競争の絶対的なポイントではない。ならばシステム化を進めて最小のコストに抑える。そのうえで強みが発揮できる提案力や技術力で勝負、というのが狙いだ。

 2004年からは営業の業務でも集約化に取り組んでいる。これまで伝票処理や顧客からの在庫や納期の問い合わせ対応といった支援的な業務も支店で働く営業担当者の仕事だった。支援業務は物流改革と同じように段階的に集約することでサービスの質を向上させ、コスト低減に挑んだ。ファクトリーと呼ぶのは、事務作業も工場のように改善を重ねて生産性を高めることが可能、という考えに基づいている。

 商社不要論という足元を揺るがしかねない世の中のムードから10年。危機感をばねに明治電機工業はさらなる成長を目指す。

●営業支援業務を段階的に本社へ集約
●営業支援業務を段階的に本社へ集約
システム構築事例が載ったナレッジマネジメントシステム「ものづくりかるた」
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商社不要論が改革の出発点
安井善宏 社長
安井善宏 社長
やすいよしひろ氏●1942年生まれ。65年3月、愛知大学卒業後に明治電機工業入社。トヨタ自動車やデンソーなどへの営業を担当。82年11月に取締役就任。92年6月から現職

 この10年余り、物流や営業の体制などを大きく改革してきた。きっかけとなったのは1990年代後半の商社不要論。実際、競争は激化した。ある大手制御機器メーカーの代理店はかつて名古屋市に20社あったが、今は2~3社を残すのみ。それらの企業もうちを通じて商品を販売する二次代理店になった。

 うちは、他社にもできることはアウトソーシングしてしまい、独自の強みを磨くという方針で生き残ってきた。物流と在庫は一元化とシステム化を進めた。その結果「1デイデリバリー」と呼ぶ、製品の翌日配送を実現できた。

 納期通りに必要な商品を届けることで得られる顧客満足度は80%。残り20%は顧客の課題を解決する力。10年がかりで物流、営業両面の体制は整ってきた。

 「商社機能を持ったFAエンジニアリング会社」をキャッチフレーズにしているが、エンジニアリング会社に完全に移行することはない。たくさんの仕入先と販売先を持つ商社ならではの情報量がうちの強みでもあるからだ。

 ものづくりのグローバル化が進むなかで、大手メーカーの兵たんは延び切っている。様々な設備を組み合わせて問題を解決する力で、こうした顧客のサプライチェーン全体を支援していきたい。(談)