漢方製剤を製造するツムラは、2010年までに原料となる生薬のトレーサビリティー体制を強化する。その1つが、品質管理システム「LIMS(ラボラトリー・インフォメーション・マネジメント・システム)」の導入である。LIMSとは、測定装置などの実験機器をネットワークでつないで、品質検査結果といった情報を一元管理するシステム。LIMSの導入によって、工場などほかの社内拠点からも即座に検査結果を把握できるようになる。今年5月から順次、国内の工場に導入し、中国の製造拠点にも2010年までに展開する計画だ。

 ツムラは現在、原料となる118種の生薬を調合して、129の漢方製剤を製造している。生薬の8割は中国からの輸入に頼る。昨年、中国産の野菜から基準値を大幅に超える残留農薬が検出されたとの報道により、中国産食品の買い控え騒動が起こった。農薬の散布時期をはじめとする生産履歴や、検査結果などをシステム上で追跡できる仕組みを確立して、漢方製剤の信頼向上につなげることを狙う。

 同社は生薬の調達拠点として、中国国内に4カ所の合弁会社を持つ。ここで買い付けた生薬は、深セン(センは土偏に川)にあるツムラの子会社で品質検査などを経てから、上海と日本にある工場に送られている。

 生薬の場合、工業製品と違って一品ずつ品質や状態が異なる。そのため、ツムラは自主基準を設け、大量に購入する前に調達拠点からサンプル品を品質検査設備がある深センに取り寄せ、基準に合致しているかを検査する。LIMSを活用することで、成分の解析結果や検査結果などの情報を深センだけでなく拠点間で共有し、買い付けた生薬の情報を即座に確認できるようになる。

 これまでは拠点単位で情報管理していたため、日本にいる品質担当者は必要な情報を各拠点から紙ベースで集めていた。「検査体制などは十分に取ってきたが、拠点間の情報連携が弱かった」と情報技術部の佐藤秀男部長は従来の仕組みを振り返る。

 ツムラはさらに、このLIMSと生産管理システムを連携する「漢方CPFR」と呼ぶシステムを構築する。これによって、製品に不具合などが発生した際の原因究明や問題を生じた原料の特定に要する時間が短くなる。

 ツムラは調達した生薬について、一定のロット単位で品質検査を実施して情報管理している。LIMSと生産管理システムを連携すれば、日本にいる生産担当者がロット番号を入力するだけで検査結果を把握できるうえ、その生薬をほかのどの製品で使用しているかなども即座に分かる。

 トレーサビリティーの基礎となる情報の精度を向上させるため、生産者にも協力してもらう。まず、肥料や農薬散布の時期などを記入する用紙を統一し、中国の生産者が記入した用紙は深センの子会社で一括登録する。並行して、栽培に関する標準作業手順も見直す。生薬は地中に埋まっている根が原料となる。「花が咲かないように、地上から10cmの位置で茎を切って根元を太くする」といったように、栽培には様々なノウハウがある。これらを標準作業手順書に盛り込み、全生産者で共有することで、質の高い生薬を安定的に調達できる環境を整えたい考えだ。