ヘアケア製品「パンテーン」やメーキャップ製品「マックスファクター」、カミソリの「ジレット」、台所洗剤「ジョイ」など日本でも馴染みの消費材ブランドを多数持つ米P&G。同社は社員同士が讃え合う風土を醸成・維持する仕組みをIT(情報技術)で実現し、その利用を活性化している。アイルランドのグローボフォースが提供するITサービスをP&Gのイントラネット向けにカスタマイズし、「パワー・オブ・ユー」という名称で日本を含む世界各国のP&Gの拠点に2006年から順次導入し始めた。

 グローボフォースのこのITサービスは、世界的な化学メーカー大手の米ダウ・ケミカルも世界各国の拠点に「リコグニション@ダウ」という名称で2005年から2006年に導入済み(記事) 。このほか、米小売り大手のセーフウエイ、世界的なニュース配信会社の英ロイターなども導入企業である。

 P&G社内でパワー・オブ・ユーを使うと、称賛や感謝の意を伝えたい同僚に対して“褒賞金”付きの電子カードを手軽に送ることが可能になる。この“褒賞金”は、パワー・オブ・ユーのウェブページ上で商品券や各種商品に変えることができる。クレジットカードのポイントを商品券や商品に交換するイメージである。各種チャリティーに寄付することもできる。

各人のピーク・パフォーマンスが最高の業績を導く

「あらゆる階層の社員が多様な角度から周囲の人の強みや貢献を認識して讃え合う組織文化が必要だ」と語る、P&Gジャパンの野々村房修ヒューマン・リソーシズ シニアマネージャー
「あらゆる階層の社員が多様な角度から周囲の人の強みや貢献を認識して讃え合う組織文化が必要だ」と語る、P&Gジャパンの野々村房修ヒューマン・リソーシズ シニアマネージャー

 P&Gジャパン(神戸市)の野々村房修(ふさのぶ)ヒューマン・リソーシズ シニアマネージャーは、パワー・オブ・ユー導入の狙いをこう説明する。「全社員がピーク・パフォーマンスを発揮するときこそ、消費者に喜ばれる製品やサービスを提供でき、当社は最高の業績に導かれる。ピーク・パフォーマンスを引き出すには、各人が『それぞれの強みをもった特別な存在だ』と実感できる環境が欠かせない。そのためには、あらゆる階層の社員が多様な角度から周囲の人の強みや貢献を認識して讃え合う組織文化が必要だ」。

 P&Gはもともと讃え合う風土があり、野村シニアマネージャーが指摘した考え方は企業理念として明文化されている。「グローバルに企業活動をしているP&Gでは国や地域を越えたプロジェクトが多数あり、そこでパフォーマンスを発揮してもらうためにもチームメンバー同士が讃え合う風土が欠かせない」と野村シニアマネージャーは補足する。

 同社の大半の社員は、同僚に少しでも仕事を手伝ってもらうと、気軽にサンキューと言ったり、電子メールでサンキューと伝えたりする習慣が根づいている。しかし、風土は醸成し続ける仕組みがないと、徐々に変質しかねない。80カ国以上で計14万人近くが勤務する巨大企業だけに、多様な価値観を持つ新入社員も毎年多数入ってくる。それゆえ、同社には「リワード(表彰する)&リコグニション(認める)」という社員の士気向上のための仕組みがあるが、この仕組みの実行力を強化するためにパワー・オブ・ユーを導入したのだ。

讃え合う風土を醸成する仕掛けの1つである「パワー・オブ・ユー」の利用画面の一例。感謝の気持ちを伝える電子サンキューカードや、仕事での活躍ぶりを讃える“褒賞金”付き電子カードを、画面の指示に従っていくだけで簡単に送受信できる。カードの受信者は“褒賞金”を商品券や各種商品と交換する
讃え合う風土を醸成する仕掛けの1つである「パワー・オブ・ユー」の利用画面の一例。感謝の気持ちを伝える電子サンキューカードや、仕事での活躍ぶりを讃える“褒賞金”付き電子カードを、画面の指示に従っていくだけで簡単に送受信できる。カードの受信者は“褒賞金”を商品券や各種商品と交換する
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 リワード&リコグニションは、「オン・ザ・スポット」「スペシャル・アプリシエイション」「リコグニション・シェア」「地域戦略貢献賞」の4制度で構成される。これらのうち、良い仕事や行動をした人に対して上司や部下など職位を超えてタイムリーに口頭や電子カードで感謝や称賛の意思を伝えることを推奨する「オン・ザ・スポット」と、自部門や他部門に関係なく部下やチームに対してマネージャークラスの社員が自己判断で数千円から数万円の褒賞を贈る「スペシャル・アプリシエイション」の2つの制度を補強する目的で、パワー・オブ・ユーは導入された。

 残る2制度のうち「リコグニション・シェア」は事業部の業績に大きく貢献した人へのストックオプション、「地域戦略貢献賞」は日本など地域の事業戦略に大きく貢献した人への特別賞与である。

 パワー・オブ・ユーによるスペシャル・アプリシエイションのように、マネージャー同士が互いに率いるチームの活躍ぶりを讃え合う仕組みを持つ企業はほかにあまり例がない。しかし、チームの年度予算を達成しようと努力していく過程で利害がぶつかる可能性が高いマネージャー同士に讃え合う風土が醸成されれば、それは部下にも自然と波及し、全社的な風土へと発展させやすいだろう。