松下電器産業がパソコンとネットワークを利用した在宅勤務制度「e-Work」を定着させつつある。2007年4月に本格導入した同制度は、国内グループ従業員(約7万6000人)のうち、製造現場などを除くオフィス勤務者約3万人が対象となっており、これほど大規模に運用している事例は珍しい。既に約800人が利用している。

 社員に育児や介護などと仕事の両立を促し、社員の定着ややる気向上を図る。片道1時間程度かけて通勤している社員が多く、時間活用の効率化につなげる。

情報セキュリティーに万全期す

松下電器産業e-Work推進室の永木浩子室長
松下電器産業e-Work推進室の永木浩子室長

 永木浩子e-Work推進室長は「他社の事例よりも導入対象が広いため、制度を設計するうえで、情報セキュリティーと、利用者や職場の意識づけには特に留意した」と話す。

 このために様々なルールを設けている。e-Work利用希望者は、まず「基本申請」を出す。このなかで、在宅でも支障なく仕事できる意欲を持っているか、個人情報や機密情報を扱う業務ではないか、などを審査する。

 自宅内で仕事をする場所も審査の対象になる。ノートパソコンを鍵付きで保管する場所などが必須。同居人に競合他社の社員がいる場合は、個室があるかどうかなども確認する。

 2000年ごろから順次整備してきた文書・申請管理システムと、「ワープ」と呼ぶ社外からの情報アクセスの仕組みも活用する。機密情報へのアクセスなどを除き、オフィス内のパソコンとほぼ同じ作業ができる。仕事に必要な文書類は、そのつどシステムに接続して引き出す。

 パソコンが盗難された場合に備え、パソコン自体にはほとんどデータが残らない仕組み。紙の状態で文書を持ち出したり、自宅で文書を印刷したりすることは原則として禁止している。

「在宅のほうがかえって集中」とやる気も向上

 同制度の利用者は男女比で見ると2対1で男性が多い。家庭の事情などに応じて月に数日在宅勤務するパターンが一般的。基本申請を受理された人が実際に在宅勤務する時は、事前にどの日にどんな仕事をするかという「在宅勤務計画書」を提出する。当日の申請は認めていない。当日は、業務開始時と終了時に上司に報告する。

 環境報告書の作成などに従事する環境本部環境企画グループ環境企画第一チームの冨田勝己・参事は、夫人が体調を崩した時に、仕事をしつつ家事もこなすために制度を利用した。

 「意志が強いほうではないので自分は在宅勤務に向かないと思っていたが、意外と集中できた。やるべきことが定まっているうえ、オフィスにいる時によくある来客や電話などによる中断が無く、時間の密度が濃い」と話す。パソコンに導入したテレビ会議ツールを使って、オフィスにいる人との会議も問題なくできたという。