hTc Z選択はセキュリティが決め手に

 PDAをhTc Zに切り替える契機になったのは,PDAのリース切れである。PDAに搭載されているOSのサポート期間も終了しており,同じシステムを継続する選択肢はなかった。

 検討したソリューションは4種類。PDA,スマートフォン,auの携帯電話+BREWアプリケーション,タッチパネルの業務端末である。この中で,既存システムを最大限活用しつつ,セキュリティを強化できる点でhTc Zを選んだ。hTc Zは「Exchange Server」と連携して,端末のデータを削除する機能を持っていたからだ。

 2003年から利用してきたPDAのシステムでも,情報漏えいを防止する対策はとっていた。具体的には,3回連続してログオン・パスワードを間違えると,データをすべて消去するという仕組みの導入だ。「当時こうしたソフトウエアは市場になかったので,独自に開発した」(経営管理本部システム企画部システム推進課の島田晃広氏)。

 ただ,こうした仕組みを入れていても,リモートから消えたことを確認できないのは不安だ。hTc Zを使ったシステムでは「センターからデータを削除したことを確認できるので大きな安心感を得られる」(間瀬部長)。

 現在は,Exchange ServerとhTc Zが搭載するWindows Mobile 5.0の連携機能を利用し,パスワードを連続3回間違えたらデータを消去する機能も実装している。

 これとは別に,データの暗号化も併せて実施している。内蔵のフラッシュ・メモリーを無理やり解析するような攻撃からデータを守るためだ。暗号化にはアイエニウェア・ソリューションズのモバイル・データベース「SQL Anywhere」の暗号化機能を利用した。

依頼書のダウンロードを自動化

 hTc Zを使った新CEモバイルシステムの作業の流れ自体は,PDAのシステムと同じだ。ただし,これまでのシステムで問題となっていたカスタマ・エンジニアの使い勝手や端末の管理しやすさの点で細かい改善をしている。

 カスタマ・エンジニアの使い勝手で最も大きく変わったのは,依頼書のダウンロードを自動化した点だ。以前のPDAのシステムでは,詳細な依頼内容を確認するためにカスタマ・エンジニアが明示的にサーバーに接続して,データをダウンロードする必要があった。

 今回のシステムでは,hTc Zにメールが届くと,これをトリガーにサーバーにアクセスする。データが更新されていればこれをダウンロードする(図2)。「端末側でメール・ボックスを監視するプログラムを動作させており,メールが到着すれば,更新がないかをデータベースに確認に行くという実装にしている」(経営管理本部システム企画部システム推進課の葛谷憲治氏)。

図2●システムのイメージ
図2●システムのイメージ
修理の受け付けがあれば自動でデータベースの同期を実行するようにしてカスタマ・エンジニア(CE)の負担を減らす工夫をしている。
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細かな使い勝手が向上

 スマートフォンならではの機能としては,文書と電話の呼び出しの連携が挙げられる。hTc Zに依頼書を表示して,依頼主の電話番号をタップすればすぐに電話がかけられる。PDAの場合は,PDAで依頼書を見ながら,携帯電話に番号を打ち込んで電話をかけなければならなかった。

 モバイル・プリンタとスマートフォンの接続がBluetoothになったことも,使い勝手の向上につながっている。PDAの時代は赤外線通信でプリンタと接続していたため,機器を向き合わせる必要があった。現在は,プリンタの位置を気にすることなく印刷できるようになった。

 使い勝手の向上ではないが,新しいプリンタの導入により,紙サイズがA7からA6に大きくなり,解像度も向上した。この結果,修理代をコンビニエンス・ストアで支払うための伝票をその場で印刷できるようになった。

 「振込用紙はこれまでセンター側から後日,郵送で顧客宅に送っていたため,この処理に事務費や郵便費がかかっていた」(間瀬部長)。現場で発行することでこうした経費は必要なくなる。「まだ導入を開始したばかりで,利用は少ないが,活用が進めばコストが削減すると期待している」(同)という。

データベース更新が簡易化

 一方の端末管理での改善はデータベースのメンテナンス作業が容易になった点にある。

 CEモバイルシステムでは,PDA/スマートフォンのローカル・ストレージに品番や商品名,単価などが入ったデータベースを持っている。新製品が追加された場合や価格が改定された場合にはデータベースの更新が必要になる。PDAのシステムでは,更新が発生した場合,このデータベース・ファイル全体を書き換えなければならない仕様になっていた。

 具体的には,各カスタマ・エンジニアに手動でデータベース・ファイルをダウンロードしてもらい,これを上書きしてもらっていた。こうした指示を徹底するのは難しいし,ネットワークの混雑も予想される。そこで「月に1回,地域のカスタマ・エンジニアを集めて開催されるCE連絡会でSDカードを配布してインストールしてもらう場合が多かった」(葛谷氏)という。

 今回のhTc Zのシステムでは,こうした煩雑な運用を改善するために,データの差分だけを送信できるようにした。具体的には,アイエニウェア・ソリューションズのデータベース同期ソフトウエア「Mobile Link」を導入することで解決できたという。

ここがポイント

目的:カスタマ・エンジニアの業務支援

システム:スマートフォンと基幹システムの連携

導入時期:2007年6月

効果:カスタマ・エンジニアの作業効率がアップし,コスト削減や顧客満足度向上に寄与

●会社・プロフィール
本社: 愛知県知多市
カスタマ・エンジニア: 約600人
売上高: 135億円(2007年3月)
従業員数: 427人(パート193人を含む)

●ネットワーク・プロフィール
NTTドコモのFOMA網と基幹システムをNTT西のメガデータネッツで接続。hTc Zのデータと基幹システムのデータを各トリガーに応じて同期させている。