タイルなどの建材,トイレやキッチン,ユニット・バスなどの住宅設備機械を製造・販売するINAX。そのINAXの100%子会社で製品の保守や修理を担当するのがINAXメンテナンスである(写真1)。

写真1●INAXメンテナンス 経営管理本部システム企画部の間瀬雅己部長(中央),同部システム推進課の島田晃広氏(左),葛谷憲治氏(右)
写真1●INAXメンテナンス 経営管理本部システム企画部の間瀬雅己部長(中央),同部システム推進課の島田晃広氏(左),葛谷憲治氏(右)

 同社は2007年6月から保守作業員であるカスタマ・エンジニアの業務を支援するため,NTTドコモのスマートフォン「hTc Z」とブラザーのモバイル・プリンタ「MW-260」を約600セット導入した(写真2)。同社が2003年から展開しているカスタマ・エンジニア向け業務支援システム「CEモバイルシステム」を更新・強化するためだ。従来のシステムは,FOMAカードを搭載したPDAと携帯電話,モバイル・プリンタを使っていた。


写真2●カスタマ・エンジニアが携帯するシステム
写真2●カスタマ・エンジニアが携帯するシステム
NTTドコモのスマートフォン「hTc Z」(右)とブラザーの「MW-260」。

IT化でリードタイム削減を狙う

 2003年に導入したCEモバイルシステムの狙いは二つあった。一つはカスタマ・エンジニアに情報を直接入力させることで,依頼から修理完了までのリードタイムを減らすこと。もう一つはペーパーレス化によってコストを削減することだった。

 それまで,カスタマ・エンジニアとINAXメンテナンス本社間のやり取りは,電話やFAXだった。これがボトルネックとなり,時間とコストの両面で効率が悪かった。

 カスタマ・エンジニアは地域ごとに個別契約している個人事業主である。このため,自宅が事務所を兼ねていて,受注から修理までを1人でこなしているケースが少なくない。

 INAXメンテナンスの修理受付センターが受け付けた顧客からの修理依頼は,FAXでカスタマ・エンジニアに送られる(図1)。カスタマ・エンジニアがこの内容を確認できるのは夕方や夜であることが多い。そこからアポイントを取るので,顧客への電話が次の日になることもしばしばあった。修理報告も夜間にFAXで送るので,INAXメンテナンス側も工事の状況を翌朝になるまで確認できなかった。

図1●INAXメンテナンスのカスタマ・エンジニア(CE)の業務
図1●INAXメンテナンスのカスタマ・エンジニア(CE)の業務
修理受付センターに顧客から連絡が入ると,センターからCEに連絡が入る。CEは顧客に電話をかけて訪問時間を設定し,訪問修理を実施する。この間に,修理センターとの間でやり取りが発生する。また,修理に必要な部材を発注する業務も並行して実施する。

 修理に必要な部材の発注も,カスタマ・エンジニアの手が空いている夜になるので,処理されるのは翌朝になってしまう。部材がカスタマ・エンジニアに届くのが遅くなれば,それだけ修理が完了するまでの期間は長くなる。

 また,カスタマ・エンジニアからFAXで受けた情報は,INAXメンテナンスの事務員がコンピュータに手入力しなければならなかった。

PDAシステムで効率が劇的に向上

 FAX中心のシステムを2003年にCEモバイルシステムに切り替えたことで,作業を進める上でのボトルネックは劇的に改善した。INAXメンテナンスからカスタマ・エンジニアへの発注の確認や修理完了の報告,部材の発注などがPDAでできるようになったからだ(写真3)。まず,INAXメンテナンスからのカスタマ・エンジニアへの依頼は,どこからでも確認できる。顧客から依頼が届いたことは,携帯電話のメールで伝わる。

写真3●CEモバイルシステムの画面例
写真3●CEモバイルシステムの画面例
修理/点検の依頼者(施主)のレコードに対して,訪問予定の入力(行動入力),報告書入力,部材発注などが実行できるように設計してある。
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 また,顧客との訪問日の調整結果もカスタマ・エンジニアがPDAで入力することで,事務員の手を介さず直接サーバーに格納されるようになった。

 修理完了後,顧客宅で利用した部材,修理時間,修理内容などを記載すれば,修繕費用や報告書が作成され,自動的にサーバーに送信される。

 よく使う修理部材がカスタマ・エンジニアの手元にいつもあるようにする工夫も取り入れた。カスタマ・エンジニアが保持する部材をサーバーで管理し,あるしきい値以下になると自動的に発送する。

 こうした仕組みを導入することで,「1999年には修理の要請から修理完了の報告が上がるまでに3日かかっていたが,今では平均1.8日で済むようになった」(経営管理本部システム企画部の間瀬雅己部長)。さらに,FAXや電話によるやり取りを省略したことで,内容を転記する事務員の数は減った。「従来20人いたパートタイマーを4人にすることができた」(間瀬部長)。

 このほか,顧客宅では工事の報告書を作成する際,必ず3枚つづりの特注の複写紙を使っていたが,モバイル・プリンタに印刷することで削減できた。「まだ,複写紙を使っているケースがあるので,ゼロにはなっていないが全部撤廃できれば,年間1億円の削減になる」(同)という。