転職支援・人材派遣サービス大手のインテリジェンスは、およそ5年前の2002年9月期は年商234億円だったのが、2006年7月に行った学生援護会の吸収合併などを経て、今期(2008年2月期)は914億円の売上高を見込むまでに急成長している。

 そんな同社の活気ある組織作りを支える大きな柱の1つが、企業理念を実践できた社員を社員同士がお互いに投票し合って選ぶ「DNA賞」であることは人事組織の専門家の間でもあまり知られていない。

 4つの事業それぞれにつき半期ごとに投票で受賞者を選んでいる。2007年10月に、第8回目になるDNA賞の受賞者を社内で発表した。

半期に1度、事業ごとに理念実践のベスト社員を選出

 もともと同社の最大の武器は、上昇志向の強い若手社員の多さだといわれる。鎌田和彦社長や、会長でありUSEN社長を兼任する宇野康秀氏ら経営幹部に憧れて入社する社員が少なくない。3000人以上の従業員を抱えるにもかかわらず平均年齢は31才そこそこと若い。

 だが、そんな同社が、およそ5年前に壁にぶち当たっていた。2001年10月~2002年3月の半期で赤字決算に陥ったのだ。
半期とはいえ、初めての赤字決算に危機感を抱いた同社は、企業理念を明文化し、浸透させることで組織の求心力を取り戻す必要があると考えた。創業期は一体感が強かった同社だが、急成長するにつれて安定志向など多様な価値観を持つ人材が入り交じり、サービス品質が不安定になったり、業務に非効率な面が目立ち始めていたのだ。

 また、もともと起業家精神にあふれた人材が多い同社だけに、有能な人材が離職してしまうケースが多いことも問題だった。組織の一体感を高める策が必要になっていた。

 まず2002年10月に企業理念を明文化。さらに、2002年度(当時は9月期決算のため2003年9月期)の年度末から、DNA賞を創設した。

「5つのDNA」に絡めて全員が推薦文を書く

 DNA賞は2002年に定めた5つの行動指針のいずれかを部内で一番実践できている社員を選出する。5つの行動指針とは、「社会価値の創造」「顧客志向」「プロフェッショナリズム」「チームプレー」「挑戦と変革」である。

 選出方法で特徴的なのは、同僚の推薦がベースになっていることだ。上司や人事部門の目でなく、現場の目でイントラネットを使って同僚の活躍ぶりを行動指針に絡めて書き推薦文として提出する。

 例えば、「月末で誰もが予算達成に向けてせっぱ詰まっている時、Aさんが内線で『あの人は私にとってモノではないのです。大切なひとりのお客様であり、人生をかけてくださっている。軽々しくそんなことを言わないでください』と本気で怒っていました。どんな時も揺らがぬその姿勢は真の顧客志向でありプロフェッショナリズムだと、共感と感動を覚えました」という具合だ。

 DNA賞はこうした推薦の数で直ちに決まるわけではない。どんな行動が正しいかどうか唯一の答えがあるわけではないからだ。推薦文を集めたら、次は部内で推薦文を基にして話し合う。インテリジェンスの伊達克広・経営企画統括部マネジャーは、「DNA賞の意義は、『誰が最もDNAを体現した行動ができていたか』について社員みんなで話し合う場を設けることにもある」と説明する。

 部内の合意によってDNA賞候補者を選んだら、次はマネジャー会議を開いてさらに候補者を絞り込む。最後は、役員会議で4つの事業ごとに1事業につき1人ずつ受賞者を選ぶ。

 4人の受賞者は、期初の社員総会や事業別下期キックオフ総会の場で、大々的に表彰される。受賞者には、賞金10万円、5万円のほしいもの、ザ・リッツ・カールトン大阪の宿泊券など最高級と呼ばれる顧客サービスを体験できる権利が贈答される。

受賞者以外にもモチベーション向上の効果

 この社員投票の仕組みはこれで終わりではない。同僚から提出された推薦文をプリントアウトし、マネジャーが部下に対して個別面談をする。この面談も、自分と同僚の行動を客観的に振り返る機会の場として意義が大きいという。「同僚から思わぬ褒め言葉をもらうこともあり、モチベーション向上にも大きな効果がある」と伊達マネジャーは補足する。同社では、DNA賞や推薦文を、直接、人事考課点には結びつけてはいない。だが、精神的な“報酬”は非常に大きなものがあるようだ。

 経営側から理念を一方通行で説くのでなく、現場が自発的かつ定期的に企業理念について真剣に考える場を作った同社の手法は、企業理念の浸透に悩む多くの企業にとって参考になる事例だろう。ただし、同社でも最初から社員がもろ手を上げて賛成したわけではなかった。DNA賞の開設当初は「面倒くさい」という声も上がった。だが、回を重ねるごとに「普段は讃え合う機会が少ないからいいね」と社員の間に定着していったという。