写真1●ユニバーサルミュージック情報システム部の西本武司次長 |
音楽・映像ソフトの制作を手がけるユニバーサルミュージックは,2007年2月に「プッシュメール」を導入した。プッシュメールは,社内のグループウエアに届いたメールやスケジュールに登録した予定を,リアルタイムで携帯電話などの端末に自動配信する仕組みである。導入対象は「会長や取締役,マネージング・ディレクタなどマネジメント層の社員15人」(情報システム部の西本武司次長,写真1)。将来的には対象を50人にまで広げる計画だ。
米ビストのプッシュメールを導入
同社が採用したのは,米ビストが提供する携帯電話およびスマートフォン向けのプッシュメール・サービス「Visto Mobile」だ。このサービスは,ユーザー企業の社内に設置したグループウエア・サーバーのデータを,英シンビアンや米マイクロソフトのOSを搭載したスマートフォンなどにほぼリアルタイムでプッシュする。対象とするグループウエア・サーバーは,米マイクロソフトのExchange Serverや米IBMのLotus Dominoなどである。これらのサーバーを設置している企業ネットワーク側に「Visto Mobile Enterprise Server」を加え,グループウエアからデータを取得。インターネット上にあるビストのNOC(network operation center)を介して,携帯電話やスマートフォンに送る仕組みだ(図1)。
図1●ユニバーサルミュージックが導入した米ビスト「Visto Mobile」の使い方 メールやスケジュールをタイムラグなく確認できることを重要視した。 [画像のクリックで拡大表示] |
ユニバーサルミュージックでは,本社にあるExchange Server 2003のデータを,主にソフトバンクモバイルの「X01NK/705NK」と連携させている。
情報入手のタイムラグを埋めたい
ユニバーサルミュージックがプッシュメールに求めたのは,業務に必要な情報を入手しやすくすること,そして情報共有のための手段である。検討の過程で Visto Mobileがこれらの要件を満たしていることを確認した。さらに競合ソリューションに比べ運用コストが安価で,利用できる端末の種類が豊富であることを評価し,導入を決めた。
プッシュメールを導入することで,連絡事項の伝達や情報共有のタイムラグが短くなった。Visto Mobileの導入前は,秘書が紙ベースの予定表を印刷しマネージメント層に手渡して,スケジュールを管理していた。だがそれでは,1日中最新の状態に保てない。更新するには秘書から電話をもらい,メモを取る必要があった。スケジュールを調整する作業も煩雑である。プッシュメールを使えば,新着メールや新規登録スケジュールが,ほぼリアルタイムで携帯端末に届けられる(写真2)。
写真2●Visto Mobileを利用する携帯端末 社員はグループウエアのメールやスケジュールの最新状態を確認できる。写真はNokia E61。 |
セキュリティの確保も条件
導入に当たっては,セキュリティを確保することも譲れない条件だった。出先からの予定確認方法としては,Googleカレンダーなどの携帯ブラウザで使えるサービスを使う方法もある。だが,「会社のデータが社外に出てしまうことになり,情報漏えいにつながりかねない」(西本次長)ため,社内ルールで禁止している。また,シニア・マネジメント層は重要な情報を扱うため,情報システムの担当者としては,情報の管理を自らの手でできない仕組みは推奨できなかった。
Visto Mobileの場合,通信経路上のデータはすべて暗号化される。端末を紛失しても遠隔操作でプッシュ配信を停止したり,端末内にキャッシュされたVisto Mobileのデータを見られないようにしたりできる。
BlackBerry検討,事業者限定に不満
ユニバーサルミュージックでは,カナダのリサーチ・イン・モーションが提供する「BlackBerry」も検討した。同社の英国本社や米国オフィスなどで既に利用しているためだ。
同社がBlackBerryのサービス内容やコストを調査したところ,導入コストや日本語化の進捗状況,携帯電話の選択肢の多さなどの点でVisto Mobileに軍配が上がった。
例えばプッシュメールのサービス利用料金。検討を進めていた当時は,定額料金でBlackBerryを使える接続メニューがなかった。マネジメント層の社員は財務や承認のドキュメントを閲覧するなどパケット通信を多用することがあり,こうした点を踏まえて1端末当たりのサービス料金と基本料を含むデータ通信料金を見積もると,月額2万5000円を超えたという。
Visto Mobileを使う場合は,1端末あたり月額1万1000円を超える程度。ソフトバンクモバイルの携帯電話サービスを採用することで, BlackBerryでは導入できないパケット定額サービスに加入できる。またBlackBerryを使った場合に発生する月額の保守サポート費用が Visto Mobileにはかからない。初期費用と端末代も見積るとビストの方が安かった。
検討を始めた当初,BlackBerryが日本語化されていなかった点も導入の壁となった。利用できる端末の選択肢が限られることも気になったという。日本で入手できるBlackBerry端末は1機種で,サービスを提供している携帯事業者はNTTドコモだけ。シンビアン搭載端末からWindows Mobile搭載端末に乗り換えたり,低コストを追求して携帯事業者を変えられるVisto Mobileの方が,投資メリットが得られると判断した。
バッテリ持続時間でシンビアン採用
ユニバーサルミュージックでは,2月下旬から西本次長を含む3人でVisto Mobileを使い始め,検証を経て6月からマネジメント層に導入した。
Visto Mobileを使う際の最適な端末選びにも悩んだ。シンビアンのOSを搭載したNokia E61の場合,フル充電の状態で8時ころから使い始めると早い時で夕方,あまり使わない状態でも24時ころにバッテリが少なくなるという。Windows Mobile 5を搭載した端末でもテストをしてみたが,Visto Mobileの利用に関してはシンビアン端末よりもバッテリの持続時間は短く,夕方にはバッテリが切れそうになることがあったという。
西本次長は今後の要望として,「ワークフローの承認システムなど,業務アプリケーションのデータも携帯端末にプッシュする仕組みを実現してほしい」と述べる。
|