サントリーは2007年5月,携帯電話機を端末とするモバイル勤怠管理システムを導入した。店頭の商品レイアウトなどを支援する同社の100%子会社であるサンリーブの従業員約1400人に携帯電話機を貸与。出退勤入力や休暇申請,承認状況の確認などに利用している。

 サンリーブの従業員は全国20カ所の拠点を中心に販売店を巡回しており,直行・直帰の勤務スタイルが定着していた。モバイル勤怠管理システムの導入で,直行・直帰でも出社時と同等の勤怠管理ができるようになった。さらにサンリーブの管理・監督者が勤怠データを活用して勤務状況を分析できるようになったほか,従業員自身の勤務実態の把握に役立っている。

直行・直帰が基本の勤務スタイル

 サントリーグループの従業員数は約2万人である。その中でサンリーブは量販店や飲食店に対して,サントリー,サントリーフーズおよびハーゲンダッツ ジャパンの各製品の販売促進を請け負っている。

 サンリーブの従業員は,サントリーグループ内ではほかにはない勤務スタイルを取っている。従業員はマーケティング・スタッフとして自宅から乗用車で店舗に直行。1人当たり15~25の店舗を受け持ち,1日に3~4カ所で新製品の紹介や販売スペースの確保,陳列の手法,販売促進ブースの設置といった業務をこなす。拠点に出社するのは週に1回程度のミーティング時だけだ。乗用車で巡回した後に直帰するのが基本的な勤務スタイルである(図1)。

図1●サントリーが導入したモバイル勤怠管理システム
図1●サントリーが導入したモバイル勤怠管理システム
直行・直帰の業務で出社時と同等の勤怠管理を可能にする。店頭のレイアウト提案などを主な業務とする子会社サンリーブの従業員が利用。
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写真1●サントリーのグループ業務推進部人事給与センターの本吉紳一郎課長(左),サンモアテック基盤事業部の喜多伸次氏(右)
写真1●サントリーのグループ業務推進部人事給与センターの本吉紳一郎課長(左),サンモアテック基盤事業部の喜多伸次氏(右)

 サンリーブの拠点は全国に20拠点ある。各拠点には50~100人のマーケティング・スタッフが在籍。合計で約1400人の勤怠管理の負荷をいかに減らすかが課題だった。外勤スタッフに対しては社外からの勤怠データ入力や閲覧が効率よくできるように,そして内勤スタッフに対しては管理業務をスムーズに進められるように「誰もが慣れ親しんだ携帯電話機を端末とした勤怠管理システムを導入した」(サントリーグループ業務推進部人事給与センターの本吉紳一郎課長,写真1左)。


ザウルスから3G携帯に乗り換え

 同社はワークスアプリケーションズのERP「COMPANY就労・プロジェクト管理」を導入していた。このオプション製品である「勤怠モバイルオプション」を使うことでモバイル対応を実現した。同オプションは,端末の種類に応じて画面を生成できるコンテンツ変換サーバーとして動作する。

 携帯電話機から社内の勤怠管理システムにアクセスするネットワークには,2006年から一部クライアントで利用していたNTTコミュニケーションズのリモート・アクセス・サービス「モバイルコネクト」の「ケータイオプション」を採用。ワンタイム・パスワードで認証するVPNを使い,携帯電話網を介して社内システムに接続する。

 サントリーは今回導入した携帯電話機による勤怠管理システム以前にも,シャープのPDA「Zaurus」(ザウルス)と携帯電話機のブラウザ機能による勤怠管理システムを構築していた。しかしサンリーブのスタッフに,ザウルスの基本操作を学んでもらう必要があったため「新スタッフに対する研修に時間がかかった」(本吉課長)。

 旧システムのセキュリティ強度が不足していると感じていたことも刷新の動機となった。社内の勤怠管理システムにアクセスする手法として,DMZに配置したサーバーを経由して社内システムのデータを取得する形態を採用していた。「DMZ経由とはいえ数字のみのパスワードを利用するユーザーが多く,セキュリティ上の不安があった」(情報システム子会社であるサンモアテック基盤事業部基盤1部の喜多伸次氏,写真1右)という。

 携帯電話機とモバイルコネクトによるVPNの組み合わせに切り替えたことで,システム担当者のセキュリティに対する不安は解消。ユーザーに対しても「ワンタイム・パスワードを利用する手順の習熟はハードルが高かったが,それを乗り越えられれば新機能のメリットを享受できた」(本吉課長)。

携帯ブラウザ内で勤怠管理が完結

 勤怠管理のメニューは7項目(写真2)。出退勤の時刻を送信する際に実行する「打刻」,自動車の走行距離を記録する「走行距離・特手」,残業や振り替え休日を申請する「過勤事前・振休」,休暇申請や欠勤を報告する「休暇・欠勤」「欠勤(時間単位)」,勤怠データを閲覧する「勤務実績照会」を用意した。出退勤時に打刻を実行し,必要に応じて休暇や残業を申請するのが一般的な使い方だ。

写真2●勤怠モバイルオプションの利用画面
写真2●勤怠モバイルオプションの利用画面
勤怠管理が携帯電話機のWebブラウザで完結する。
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 新システムのメリットは,申請した休暇・残業の承認状態や勤務実績を閲覧できる双方向性,そして乗用車の走行距離を記録することで交通費精算の負担を軽減する点にある。

 旧システムでは,自分がどれだけ働いたのかをリアルタイムに知る手段がなかった。フルタイムの従業員はともかく,都合に合わせて勤務できるパートタイムの従業員にとっては物足りないシステムだった。勤怠モバイルオプション導入後は,勤怠データを通じて日々働いた実感を得られる。

 走行距離については,乗用車の走行距離メーターを読み取った値をユーザーが入力。そこから算出した距離を基にガソリン代を申請できるほか,訪問した店舗数の目安に使える。