東京・原宿や新潟,愛媛・松山でショッピング・センターを運営するラフォーレ原宿は,2005年11月からクライアントで利用するアプリケーションの実行環境の仮想化に乗り出している。米マイクロソフトの仮想化ソフト「SoftGrid」を利用して,アプリケーションとその動作に必要なDLL(dynamic link library)ファイルなどをパッケージ化。本社から各拠点のクライアントにパッケージ化したアプリケーションを配布する体制を築いた。2007年10月には全社約120台のクライアントを仮想化環境へと移行する計画だ。

 アプリケーション実行環境の仮想化によって,クライアント側のOSバージョンやパッチの違いによる業務ソフト動作時の不具合を解消。併せてクライアント管理の手間を大幅に軽減した。

パッチを当てただけで動作しない

 同社がアプリケーション実行環境の仮想化に乗り出したきっかけは,クライアント上で業務用ソフトが動かなくなる問題が発生していたからだ。

 同社は業務の根幹となる会計ソフトやカード会員の管理ソフトとして,マイクロソフトのデータベース・ソフト「Microsoft Office Access」上で動作する市販パッケージを利用している。同社業務企画ディビジョンの木島信宏マネージャー(写真1)は「OSやAccessのバージョン・アップばかりか,セキュリティ・パッチを当てただけで,市販パッケージが動かなくなるという問題が頻発していた」と語る。

写真1●ラフォーレ原宿 業務企画ディビジョンの木島信宏マネージャー(左)と内川依里子副主事(右)
写真1●ラフォーレ原宿 業務企画ディビジョンの木島信宏マネージャー(左)と内川依里子副主事(右)

 原因はアプリケーションの動作に必要なDLLファイルなどが,パッチの適用などで更新されたため。特定のファイルに依存していたアプリケーションが動作しなくなったのだ。「結局,クライアントごとにAccessのバージョンを変えることで対処していたが,管理が複雑になり負担となっていた」(木島マネージャー)。

 同社はこの問題を解決するために,当初は米マイクロソフトの仮想OS環境である「Virtual PC」を導入。アプリケーションごとにOSを使い分ける方法を採った。業務ソフトが動作しなくなる問題は解消したが,「1台のクライアントで複数バージョンのOSを扱うため,一層管理の負担が増した」(木島マネージャー)。また仮想OSの起動に時間がかかるため,社員の評判も悪かったという。

Win2000専用アプリがXPで動作

 抜本的に問題を解決するため,同社はさらなる解消案を探していた。そんな時にSoftGridに出会った。

 SoftGridは,「シーケンサー」と呼ぶ仮想アプリケーション作成環境を使い,アプリケーションとその動作に必要なDLLファイルなどをまとめてパッケージ化する。こうして作成した仮想アプリケーションは,SoftGridのランタイム環境をインストールしたクライアント上で動作する。クライアント側の環境に依存しないアプリケーション実行環境を実現できる(図1)。

図1●SoftGridによるアプリケーション仮想化のメリット
図1●SoftGridによるアプリケーション仮想化のメリット
アプリケーションごとに必要なDLLファイルやINIファイルをパッケージ化して仮想アプリを作成する。アプリ間でDLLファイルなどの共用が無くなるため,コンフリクトによるアプリケーションの起動障害などを防げる。

 作成した仮想アプリケーションはサーバーに保存し,クライアント側から必要に応じてダウンロードする。クライアントに直接アプリケーションをインストールする作業が発生しない。「離れた拠点のサポートの手間が省けるため,大変興味を持った」と木島マネージャーは語る。

 そこで同社は,試しにSoftGridを使って,Windows 2000のみで動作する会計ソフトを仮想アプリケーション化してみた。その結果,Windows XP上でも動作が確認できたため,本格的に全社導入を決めた。

 本社内に仮想アプリケーション作成環境と配信用のサーバーを用意し,全国の6拠点に対して,仮想アプリケーションを配信する環境を構築した(図2)。拠点と本社を結ぶWAN回線には,以前から利用しているIPsec対応ルーターで構築したインターネットVPNを採用。アクセス回線には,NTT東西のBフレッツやUSENの光アクセス回線を利用している。各拠点のクライアントのOSにはWindows XPを採用。その上にSoftGridのランタイム環境をインストールした。

図2●ネットワークを介して拠点に仮想アプリケーションを配信
図2●ネットワークを介して拠点に仮想アプリケーションを配信
シーケンサーによって仮想アプリケーションを作成。サーバーに格納することで,ネットワークを介して拠点に仮想アプリケーションを配信できる。拠点と本社を結ぶWANはインターネットVPNで構成している。

 なお仮想アプリケーションの作成は,専門の外部スタッフではなく,同社業務企画ディビジョンの内川依里子副主事が担当している。「仮想アプリケーション作成環境であるシーケンサーはウィザード形式のため,クライアントにアプリケーションをインストールする時とそれほど変わらない手順で仮想アプリケーションを作成できる」(内川副主事)。

アプリ追加時の手間が大幅軽減

 SoftGridの環境に切り替えたことで,ラフォーレ原宿が抱えていた数々の問題は抜本的に解決できた。木島マネージャーは,「アプリケーションが動作しないという問題を解消できた。Virtual PCと比べて動作も格段に軽くなっている」と説明する。

 仮想化したアプリケーションは,ユーザーのクライアント側に一度ダウンロードされれば,クライアント側のローカル・ディスクに保存され,実行される仕組みである。バージョンアップ時などは差分だけをクライアントに配信すればよい。「社員の中にはSoftGridのような仕組みを使っていることに気付かない人もいるのではないか」と木島マネージャーは語る。

 新たにアプリケーションを追加したいときには,仮想アプリケーションを作成しサーバーに保存して,クライアントに配信するだけで済む。「離れた拠点へ出向いて調整をしなくても済むようになった。管理の手間の軽減にもつながっている」(木島マネージャー)という。

ここがポイント

目的:アプリケーション実行時の不具合解消

購入ソフト:マイクロソフトの「SoftGrid」

導入時期:2005年11月から順次導入

効果:Windows 2000専用アプリをXPで使用。クライアント管理の手間を軽減

●会社プロフィール
拠点数: 6拠点
売上高: 2180億円(2006年3月期,親会社である森ビル流通システムの売上高)
従業員数: 118人(9月末)

●ネットワーク・プロフィール
本社と各拠点をインターネットVPNによって結ぶ。アクセス回線は,USENの光アクセス回線やNTT東西のBフレッツを使用。