デジタル屋台の全景。必要なネジや工具などをランプで知らせる
デジタル屋台の全景。必要なネジや工具などをランプで知らせる

 工業用ミシンのJUKIは、2008年度中に「デジタル屋台」で組み立てる対象機種を全機種に拡大する。

 デジタル屋台とは、作業台の横にモニターがあり、画面の指示通りに作業すれば、製品が組み上がるもの。新人作業員の育成期間短縮と作業精度の向上が狙いで、2004年から取り組みを始めたものだ。従来は5日間かかっていた新人の指導期間が1日に短縮する成果も出ている。

 同社工場の主力ラインの3分の1の作業員は、派遣社員である。ベテラン作業員が付いて指導しなければならないが、早期に一人前できる仕組みづくりが課題だ。

 従来、紙の作業指示書で組み立てさせていた。新人作業員からすれば、作業指示書も限られたスペースしかないために、要点だけをまとめていたために分かりづらい面があり、用紙には書いていないコツをベテラン作業員に指導してもらう必要があった。ベテラン作業員にとっては、作業内容を一度覚えてしまうと毎回確認することが少なく、棚などにしまっておくことが多かった。

 デジタル屋台は、作業指示書を細分化して静止画と音声で説明する。1作業を6枚に細切れにするなど、熟練工が作業指示書には書いていない独自の経験やコツなども盛り込んだ。新人には分かりやすく、熟練工には作業の抜けや漏れを防ぐ仕組みを目指している。

デジタル屋台は人材育成の場

生産改革を指揮する上席執行役員の山岡修二大田原工場長
生産改革を指揮する上席執行役員の山岡修二大田原工場長

 デジタル屋台の導入に当たり、まず人材育成方法を変えた。これまで20~30機種ある基本構成機種別に人材を養成していた。担当者の技能が生産機種に依存してしまうため、生産の変動に柔軟に対応できる状態ではなかった。そこで、全員がすべての機種を組立できるように変えた。

 すべての組立作業を5人で1週間かけて分解し、組立要素技術マニュアルとしてまとめた。これは全機種の組立作業を洗い出すとともに、作業別に4段階の難易度を設定した。その結果1万3000に細分化するとともに、これらをネジ締めやグリス塗布といったように11に区分した。上席執行役員の山岡修二大田原工場長は、「このマニュアルは、作業員の汗の結晶」だと表現する。洗い出した技術マニュアルを基にして、機種別の作業手順が出来上がる。

 JUKIでは、デジタル屋台を人材育成の場と考えている。デジタル屋台で使用する工具にもその姿勢が表れている。デジタル屋台では、画面に表示した作業を確実にこなしたのかを確認する必要がある。そのため、作業内容を管理するためにトルクの締め付け具合などを数値化できるデジタルトルクレンチと呼ぶ工具を導入することが多い。だが、「表示された数字の力を加えるだけで、作業員に技術が身に付かないうえに、価格も高い」。そこで、価格が10分の1の一般的な工具を採用し、トルクアナライザと呼ばれる測定器だけを導入した。

 だが、作業員のなかには、技術が未熟な派遣社員もいれば、高い技術力を持った正社員もいる。未熟な作業員にとっては、締め付ける力加減が分からないために的確な作業ができず品質にバラツキが生じてしまう可能性がある。

 例えば、組立要素技術マニュアルを分析すると、ネジ締めにかかわる技能関連が約6割を占めるなど、ネジ締めが品質を左右する重要な工程であることが分かった。そこで、「ネジ締め検定」と呼ぶ社内検定を実施し、3カ月に1度全組立作業員が受験するようにした。成績によって5段階に技能を分ける。上位ランクであるSに認定されれば始業時に1度、初級レベルであれば作業工程ごとに確認するといったように能力に応じて確認するようにした。山岡工場長は「社員の資質をどう伸ばすかがデジタル屋台の役割」と話す。

 作業員の技術力を上げる仕組みを作ったのには理由がある。工業用ミシンの製造工場は、海外移転が進んでいる。「お金で買える技術(道具)はいずれ海外展開してしまう。人件費の高い国内で生き残るには、高い技術力しかない」(山岡工場長)。

 山岡工場長は2004年1月に大田原工場長に就任するまで、中国やベトナムにある現地生産工場の立ち上げに参画した経験を持つ。海外移転を進めてきた中心人物でもある。現地の実力を知るだけに危機感が強い。デジタル屋台を活用して技術力を向上させることで国内での生き残りをかけたい考えだ。