第一生命保険は,ストレージの仮想化機能を取り入れた。バックアップ運用の効率化が目的である。きっかけは,「データ量が増加し,バックアップに要する時間が延びてきた」ことへの対策だった。

 

バックアップの時間短縮が課題に

 仮想化にたどり着くまでに,同社が行ったストレージ運用の効率化は2段階ある。最初は,拠点系オンラインシステムを再構築した「WISEプロジェクト」。

 従来は,約2000カ所の拠点ごとにサーバーを設置し,システムやデータ管理を個別に行っていた。システムのセキュリティや可用性を向上することを目的に,WISEプロジェクトではこれらサーバーを自社データセンターに集約。約2300台あったサーバーを統合により約300台に減らした。

 同時に,ストレージ装置(日立製作所のSANRISE 9980V)を新たに2台導入し,約150台のサーバーをつなぎ込んだ。これらのサーバーは,ファイル・サーバーやノーツ・サーバー,DBサーバーなど業務データを直接管理しているものである。ストレージ装置は1台を業務用,もう1台をバックアップ用とし,従来はテープを用いていたバックアップ処理を,2台のストレージ間でディスク・ツー・ディスクで行うように変えた。

 バックアップは毎週,日曜日の午後1時に開始。8時間以内に完了することが目標だった。ファイル・サーバーには1台当たり,約250Gバイトのボリュームを割り当ててある。当初は150Gバイト程度を利用していたが,そのバックアップに約4時間を要した。その後,データ量が増えるにつれてバックアップ時間は延びた。その時間はサーバーによって異なるが,5~11時間にまで延びていき,時間短縮が緊急課題として浮上してきた。

サーバーフリー・バックアップを実現

 バックアップ時間を短縮するために,当初は,サーバー機を増やしてバックアップ能力を上げる,という案が出たという。しかし,第一生命情報システムの稲垣繁氏(基盤システム第一部 オープン技術グループ長)は,「データ量の増加に合わせてサーバーを増やしていては,根本的な解決にはならない」と考え,バックアップ方式や運用を見直すことにした(写真1)。

写真1●プロジェクトを推進したメンバー
写真1●プロジェクトを推進したメンバー
第一生命情報システム 基盤システム第一部 オープン技術グループ長 稲垣繁氏(左),同 オープン技術グループ 次席アナリスト 雨宮崇氏(右)

 稲垣氏らが考えた,ストレージ運用を効率化するためのポイントは2つある。1つは,階層化/仮想化の技術を用いてストレージの拡張性を確保し,データ量の増加に備えること。もう1つは,サーバーフリー・バックアップを導入しバックアップ時間を短縮することである。ストレージの仮想化機能を活用し,2つのポイントを盛り込んだバックアップの仕組みが図1である。

図1●ストレージの仮想化機能を使ったバックアップの手順
図1●ストレージの仮想化機能を使ったバックアップの手順
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 それまで利用してきた「SANRISE 9980V」に加え,「SANRISE USP」「SANRISE AMS」という2種類のストレージ装置を導入した。SANRISE AMSは,ディスク増設費用がSANRISE 9980Vの1/3で済むという安価な装置。これを3台導入し,ここにSANRISE 9980Vの業務ボリュームのバックアップを取得しようと考えた。ただし,両者の間で直接バックアップを取得しようとすると,その構成が複雑になる。AMSは3台あるので,サーバーをどのAMSに接続するかを,FC-SW(ファイバチャネル・スイッチ)を3台用意して分けなければならないからだ。

 こうした構成を避けるために,9980VとAMSの間に仮想化レイヤーを設け,ワンクッションおいて,バックアップすることにした。

 この仮想化レイヤーを実現するのが,SANRISE USPである。USPはディスク装置であるが,同社ではディスクを搭載せず,“仮想化のコントローラ”としての役割を担わせている。具体的には,SANRISE 9980VおよびAMSのボリュームをそれぞれマッピングしてUSP上で仮想化している。AMSのボリュームは,あたかもUSPに配置されているボリュームとして認識される。そのため,ファイル・サーバーなどはUSPと接続しておけば,AMSと接続しておく必要はない。この構成を採ったことで,AMSを増やしたときも設定などの手間がかからない。

 業務ボリュームのバックアップを取得するには,「仮想化した9980Vのボリューム」を「仮想化したAMSのボリューム」に複製すれば済む。この処理には,SANRISEが備えるボリューム複製機能「ShadowImage」を利用している。サーバーを介さないサーバーフリー・バックアップを実現し,差分更新にしたことで,バックアップ時間は30分~60分程度に短縮された。

 現在,同社のデータセンターでは約40台のファイル・サーバーを運用している。このうち,7台については既に図1に示した形でバックアップを取得している。「これまで約1年半運用してきたが,大きなトラブルは起きていない」(第一生命情報システム 基盤システム第一部 オープン技術グループ 次席アナリスト 雨宮崇氏)。こうした実績を踏まえ,今後,残りのファイル・サーバーのバックアップについても“仮想化”を適用していく計画である。