自動車の両輪を結ぶ部品「アクスル」の製造大手であるプレス工業。同社は4期連続で過去最高益を更新し続けているが、背景には独自のクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)制度がある。製品・顧客企業別に構成した計20のCFTが今や全社売上高の98.5%をカバー。各CFTが経常利益を高めるべく努力を重ねた成果が、好業績を支えているのだ。

●プレス工業は業績低迷期を、全社的なCFT活動で突破
●プレス工業は業績低迷期を、全社的なCFT活動で突破

 「当社のクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)は独自。有名な日産自動車のCFTとは違う。今年度が6期目だが、様々な効果が出ている。狙いの1つはリーダー人材育成で、第1期CFTのリーダーが昨年6月に社長となった」


●製品・顧客企業別のクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)を20チーム導入し、全社売上高の98.5%をカバー
●製品・顧客企業別のクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)を20チーム導入し、全社売上高の98.5%をカバー
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プレス工業の井出平治・常務執行役員。5年前に導入したCFT制度に確かな手応えを感じている
プレス工業の井出平治・常務執行役員。5年前に導入したCFT制度に確かな手応えを感じている

 アクスル大手のプレス工業は、いすゞ自動車やマツダ、日産ディーゼル工業、新キャタピラー三菱などを大口顧客として抱える。井出平治常務は2002年度に始めたCFT制度の手応えを笑顔で力強く語る。それもそのはず。1990年代後半に3年連続経常赤字を記録するなど10年近く低迷した業績が、2003年度から急回復。4期連続で過去最高益を更新し続けている。2007年3月期決算は売上高1759億円、経常利益99億円だった。

 昨年社長に就任した真柄秀一氏は社内で、「全社の意識改革も含めてCFTの導入効果は大きい。私自身もリーダーになって鍛えられた」と言及することが多い。真柄社長は今後も、前社長の並木彰一会長が考案したCFT制度を徹底させる。

 同社のCFTは、任意のプロジェクトチームとは違い、年度事業目標を達成するための定常的な経営の仕組みである。毎年度、「製品・顧客企業別」に経営陣がリーダーを指名してチームを作る。「大型アクスル・A社CFT」、「大型アクスル・B社CFT」「小型アクスル・A社CFT」「大型フレームC社CFT」といった具合だ。2002年度に14チームだったCFTは徐々に増え、2005年度から20チーム。売上高の実に98.5%をカバーする。


リーダーはミニカンパニーの“経営者”だ

 同社のCFTは参加人数も多い。執行役員と部長と工場長のほぼ全員がいずれかのCFTのリーダーかサブリーダーになり、1つのCFTにはこのほか7~8人のメンバーも含む。社員数は約2000人なので単純計算だと1割の人材がCFTに関与する。

 活動期間は会計年度の1年間。人事異動も加味しながら毎年2月に、経営陣が次年度のCFTの構成とリーダーの変更を検討する。CFTの成果目標は、CFTごとの経常利益とキャッシュフローの年度計画の達成。担当する製品・顧客企業に対する製品の品質、コスト、納期、技術・開発力を高める責任も負う。「リーダーはミニカンパニーの経営者のようなもの」(井出常務)なのだ。

 メンバーを選ぶ権利は、リーダーが有す。プレス工業には営業一部、営業二部、海外事業部、情報システム部、設計部、品質保証部、川崎工場、尾道工場など30近い機能別部門がある。メンバーは次長・課長・主任が多く、出身部門に対してCFTからの要望を実行させる役割を担う。リーダーやメンバーの機能別部門への影響力を配慮し、各CFTに然るべき担当役員を置いている。

 前社長が全社横断型のCFT制度を導入した狙いは3つ。(1)縦割りの機能別組織の弊害を打破、(2)工場別の採算管理の限界を打破、(3)リーダー人材を鍛える環境作り―である。特に最初の2つは、プレス工業を経営危機に追い込んだ元凶だった。1980年代までと比べて市場環境が厳しくなったため、コミットメントベースで役割と責任の所在を明確にし、売上高ではなく経常利益を高めるという意識を全社に浸透させる必要があった。

●プレス工業の製品・顧客企業別CFTは、年度単位で経常利益目標値を定めて活動していく
●プレス工業の製品・顧客企業別CFTは、年度単位で経常利益目標値を定めて活動していく
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 例えば機能別組織の弊害とは何か。部門間に目に見えない壁ができ、顧客の要求や市場の変化への対応が遅くなりがちなのだ。「各部門長はどうしても自部門を優先しがち。そんな部分最適の状態を続けたら、全社の経常利益は良くならない」と並木前社長の目に映っていたのである。

 期中の採算管理を工場単位で実施していたことにも問題があった。「工場はものづくりに責任を負うが、値決めをするのは営業部門だし、材料や部品は別部門が調達。工場の情報システムも別部門が作る。工場長が自由にできる余地は小さく、売上高や経常利益への責任がない。結果、どんぶり勘定となっていた」(井出常務)。このため、業績が好転する見通しが立たない製品をそうと気づかずに作り続けたり、いくら売れるからといって採算度外視で製造し続けたりしていた。

 そしてもう1つ、リーダー人材育成だ。部長・工場長以上を数字にもマネジメントにも強い人材に鍛え上げる。それには一国一城の主としての経験を積ませるのが一番だと判断したのである。

 CFTの業績目標は、営業部門が立てた次年度の月別売上高目標を基に作る。つまりCFTごとに割り当てられた製品・顧客企業別の売上高目標に対し、経常利益が高くなるようコスト削減につながる業務改善策を練る。いわゆる「合理化計画」だ。しかも単にコストを削るのではなく、品質や納期、開発・技術力の向上に配慮する。

 実はCFT導入当初は、年度計画を立てるのに苦労した。製品・顧客企業別に細分した売上高の予測は従来よりも難しいからだ。CFTが望む数値データを各機能部門が用意するのも大変だった。