年間約900万人の入場者数を誇る国内有数のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」。同パークを運営するユー・エス・ジェイは3月,NTTドコモのスマートフォン「hTc Z」を125台導入した。パークの内外でメールを確認できるようにすることで,幹部の迅速な意思決定を支援するのが狙いだ。

写真1●ユー・エス・ジェイ ファイナンス・アドミニストレーション本部情報システム室の新里徹也課長
写真1●ユー・エス・ジェイ ファイナンス・アドミニストレーション本部情報システム室の新里徹也課長

 「テーマパークは機動力が命。乗り物や体験型アトラクションだけでなく,パレードやショーなどのイベントを頻繁に開催しており,常に催し事が途切れないようにしている」(ファイナンス・アドミニストレーション本部情報システム室の新里徹也課長,写真1)。

 そのためには社員の連携,綿密な調整が欠かせない。例えば「イベントに合わせて照明を増やす」「ショップやレストランで関連グッズやメニューを用意する」といった具合だ。加えて「気温が上昇して暑くなったら清涼飲料水の販売員を現場に増やす」「不測の事態が起こった場合はショーの開始時間をずらす」など,「あらゆる状況を把握しながら臨機応変に行動しなければならない」(新里課長)。


メール送受信は業務全体の25%

 こうした状況下で,社員が主に利用しているコミュニケーション手段はメール。特に幹部は関係部署との打ち合わせが多く,「1時間や1時間半おきに1日数回の会議が予定に入っていることも珍しくない」(新里課長)。会議中は電話による連絡ができないので,幹部への連絡は必然的にメールが増える。実際,幹部を対象に実施したアンケート調査では,1日の業務でメールの送受信に費やしている時間は平均で全体の25%という結果が出ている(図1)。1日の業務を8時間として計算すると,メールの送受信に平均2時間かけていることになる。

図1●パソコンの利用状況に関するアンケート結果
図1●パソコンの利用状況に関するアンケート結果
1日の業務でメールの送受信に費やしている時間は平均で25%という結果が出た。幹部クラス120人を対象に実施したもので,有効回答数は88。

 ただ,メールは事務所にあるパソコンでしか読めない。事務所は1カ所ではなく,アトラクション設備や店舗内などに点在している。その数は約100カ所に及ぶ。幹部は「700~800メートル四方はある」(新里課長)広大なパーク内を動き回っていることが多い。会議の合間に事務所に戻る時間があれば問題ないが,「パーク内を移動するだけで次の会議の時間になることも少なくない」(同)。

海外利用と導入コストを重視

 そこで新里課長が着目したのが,スマートフォンの導入だ。「PDA(携帯情報端末)の選択肢もあったが,通信機能をあらかじめ搭載したスマートフォンの方が利便性が高い。しかも,最近のスマートフォンは社内のメール・サーバーと連携できる。どこでも常にメールを確認できるようになれば業務の効率化や意志決定の迅速化につながり,その分をもっと経営に振り向けられる」(新里課長)と考えた。

 導入を検討し始めたのは2006年11月。端末の候補に挙がったのは,(1)ウィルコムの「W-ZERO3」,(2)NTTドコモの「BlackBerry」,(3)同「hTc Z」──の3機種である。端末は外国人幹部が使うことを考慮して,日本語版だけでなく英語版があり,海外出張時でも使えることを条件とした。

 (1)のW-ZERO3は上記の条件を満たさないので候補から落ちた。(2)のBlackBerryと(3)のhTc Zはいずれも条件を満たすが,最終的に導入コストを重視してhTc Zを採用した。BlackBerryの場合は「BlackBerry Enterprise Server」(BES)と呼ぶ中継サーバーの導入が必要になるほか(pp.44~51の特集2を参照),「検討した当時はBESが(メールの同期を取る対象として)Exchange Serverの日本語版に対応していなかった。英語版を新規に導入しなければならず,コストが高く付いてしまう」(新里課長)。

 これに対してhTc Zは,既存のExchange Serverをそのまま利用でき,「導入コストは基本的に端末だけで済む」(同)。導入したhTc Zの台数は故障時の予備機を含めて125台。次長以上の幹部に配布し,課長以上も必要であれば申請して利用できる。現在は約540人いる全社員のうち,120人が利用している。同社は導入コストを明らかにしていないが,NTTドコモはhTc Zを同社のWebサイトで1台7万3290円(端末保守サービス込み)で販売している。まとめ買いによる割り引きを考えても,最低数百万円の導入コストがかかったと見られる。