クレジット・カード会社のオーエムシー(OMC)カードは2006年9月,本社が移転するタイミングに合わせて内線電話を刷新した。これまで使っていたPBXは撤去し,IP-PBXを新たに導入。IP電話システムを構築した。 新本社で採用したのは,沖電気工業のIP-PBX「SS9100」と固定IP電話機「eおとIPフォン」,そしてIP電話のアプリケーション連携に使う「SIPアプリケーションサーバ」である。約500台のIP電話機を導入して運用している。

旧来の内線は5番号をピックアップ

 移転前の本社では,入り組んだ内線電話の使い方をしていた。基本となる操作は,部署ごとに割り振った番号への着信を各社員の電話機でピックアップしてパークするという一見シンプルなものだった。だが,同社はピックアップする番号の数が一般的な企業の内線電話としては多かった。具体的には次のようになる。

 1台の電話機は,最大五つの番号の着信をピックアップできた(図1)。五つの番号それぞれに専用ボタンを割り当てて,着信時には該当するボタンが光る。社員は光ったボタンを見れば,誰もしくはどこの部署あての着信であるかがすぐに分かった。五つの番号としては,社員の業務に関係する部署の番号と,関連する役員および一部の部長の番号が割り当てられていた。

図1●移転前の本社の電話の使い方を,新本社のIP電話でも実現した
図1●移転前の本社の電話の使い方を,新本社のIP電話でも実現した
移転前の本社では社員がピックアップできる着信の種類が最大5番号と多かった。

 社員にとって誰あての着信であるかが分かる半面,5番号もの着信を取り分けてから転送するため,「電話の取り次ぎ回数が多かった」(CSR推進部の栗田弘子氏,写真1)という問題があった。その手間と負荷を減らすために移転を機にIP電話を導入して,ダイヤルインによる個人番号への着信を実現することにした。

社内の要望で部署番号は継承

写真1●IP電話への移行に取り組んだOMCカード CSR推進部の栗田弘子氏
写真1●IP電話への移行に取り組んだOMCカード CSR推進部の栗田弘子氏

 当初はすべてをダイヤルインに移行する計画だったが,その計画は途中で変更せざるを得なかった。現場のユーザーから従来の電話の使い方を残して欲しいとの声が上がったからだ。

 IP内線電話の導入を検討し始めた当初は,電話番号を個人番号に一本化する方向で話が進んでいた。だが,これに対してOMCカード社内には反対の声があった。「ある部署に質問をしたい場合,個人番号しかないと誰にかけたらいいか分らない。部署にかければ誰かが出てくれる,という意見が出てきた」(栗田氏)。

 そこで同社は,折衷案を採ることにした。今までのPBXで実現していた部署番号などによる着信はそのまま使えるようにしつつ,同時に個人番号を導入してダイヤルインを推進していくというものだ。

 ただし,IP電話を使って,従来のPBXが実現していたのとまったく同じ使い方を実現するのは簡単ではない。導入にあたりOMCカードは,ベンダー2~3社のIP電話製品を検討した。その結果「複数の番号に対する着信をピックアップしてパークできる使い方ができる」「IP電話機の使い勝手が刷新前と似ている」など同社の要求を満たせる点を評価して,沖電気の製品の採用を決定。インテグレーションも沖電気が担当した。

現場巻き込み複雑な番号計画実現

 今回のIP電話システムのインテグレーションを担当した沖電気 IPソリューション部の春名伸昭氏は,IP電話システム構築当時はOMCカードの担当者と毎週打ち合わせをしていたと振り返る。そのおかげで複雑な番号計画を新本社のIP電話システムに受け継ぐことができた。「例えば(電話を多用する)秘書担当者が打ち合わせに出席し,電話の使い方を説明してくれた。システムの内容を決める作業は次回に持ち越さず,打ち合わせの席で決まっていった」(沖電気の春名氏)。

 こうしたOMCカード側の協力体制もあって,複雑な番号計画だったにもかかわらず,構築と移行作業は4カ月ほどで終了した。

個人番号は転送や伝言設定も可能

 移転後に使い始めた個人番号は,単に外線を個人に着信するためだけに使うのではない。各社員がIP電話機のボタンを操作することで,個人番号あての通話をボイス・メールで受けたり,不在時に携帯電話に転送できる。

 また,IP電話機のボタンを押すことで,移転前と同様に複数の部署番号や役員の番号あての着信が取れる。最大で八つの番号をピックアップできる。OMCカードでは,こうした使い方を実現するため,呼制御にSIP(session initiation protocol)ではなく,沖電気独自のプロトコルを使っている。

 さらに同社は,沖電気の提案によりIP電話とパソコン上の電話帳アプリケーションが連携できるようにした。移転前は,内線番号が分からない部署にかける場合,イントラネットで検索していたが,移転を機にクリック・トゥ・コールを活用。パソコンで電話帳アプリケーションを起動し,そこで内線番号を検索。それをクリックすることで電話が発信できる。

 この電話帳アプリは,プレゼンス機能も備える。各番号が現在通話中かどうかが分かる。電話帳アプリとの連携には,開発が容易である点を評価して,独自プロトコルではなくSIPを採用した。この仕組みを実現するために,IP-PBXとは別に「SIPアプリケーションサーバ」を導入した(図2)。

図2●OMCカード新本社のネットワーク構成
図2●OMCカード新本社のネットワーク構成
IP電話を導入し,パソコンからクリック・トゥ・コールで発信できる仕組みを実現した。音声系ネットワークとデータ系ネットワークは分離している。
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課題は個人番号の活用推進

 順調に稼働しているOMCカードの内線IP電話システムだが,目下の課題は社員の個人番号の活用を推進すること。メールで周知するなどの普及活動を展開しているところだ。

 栗田氏は「電話を取り次いでもらうのが当たり前と考える人がいて,個人番号を定着させるのは難しい」という。ただ,部署番号ではなく個人番号を使う機会は増えているといい,当初考えていた個人番号への完全移行に一歩近づいている。