データ示し大人用おむつを拡販

 カテゴリーマネジメント適用例の1つとして、大人用紙おむつ「リリーフ」の強化がある。花王は昨年9月に、「退院後のリハビリ用」という位置付けの高性能製品を発売した。少子高齢化で、子供用紙おむつの市場は年々縮小しているのに対し、大人用は成長が見込める。

図2●カテゴリーマネジメントの提案事例(大人用紙おむつの場合)
図2●カテゴリーマネジメントの提案事例(大人用紙おむつの場合)
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 小売業にとっても事情は同じだ。特売対象になりやすい子供用と異なり、利益率も高い。首都圏で約100店を展開する中堅スーパーチェーンは、高齢層の顧客をつかむ売り場作りの方策を練っていた。花王CMKは、「大人用おむつカテゴリー」の改善提案を行い、チェーンの売上高と粗利益の向上につなげた。

 まず、KMSのスタッフがチェーン全店を訪問し、1週間かけて現状を把握した。3分の1の店舗で大人用おむつを扱っていたが、子供用にスペースを割いていたり、ほかの介護用品に隠れて目立たないケースが多かった。こうした売り場では2~3年前から棚割りを変更しておらず、売れ行きの芳しくない商品が棚を占有していた。

 次に、取り扱い店舗を対象に、「AIS」というツール使って商圏分析をした。AISは昨年6月に改良を加え、「店から半径2km」といったレベルではなく、「車で10分以内」など所要時間で商圏を設定できるようになった。カーナビゲーションの技術を応用し、一方通行や踏み切り、渋滞などの状況も反映して、商圏内の正確な世帯数や男女・世代別人口などを割り出せる。

 ここから分かる商圏内の市場規模と、「Ez-Fact」と呼ぶツールで分析した他社製品も含めたPOSの販売実績データを組み合わせる。これで店舗ごとの「商圏内シェア」を割り出せる。東京都内のある店舗では、日用品全体では商圏内で10.7%のシェアを取っているのに対し、大人用おむつはわずか2.9%にとどまっていた。大人用を求める顧客はドラッグストアなど他店に流れていたわけだ。

 「小売店のPOSデータがなければ分析は難しい。データをなかなか出してもらえないこともある」(堀部長)。POSデータを入手できない場合は、花王CMK側が持つ納品数や、小売店側から口頭で聞いた販売数など、断片的なデータを基に仮説を立てて、小さな成功事例を作るところから始める。このチェーンとの間でも小さな取り組みから始め、4~5年前からPOSデータの全面提供を受けられるようになった。今では、日用品全カテゴリーの棚割りで花王CMKと連携するまでの深い信頼関係を築いた。

 大人用おむつの商圏内シェアを高めるために、花王CMKは、棚割りツールの「Cockpit」を使い、新たな棚割りを作成。子供用のスペースを縮小し、大人用のスペースを倍にするといった提案を出した。大人用と子供用の棚が隣接していて棚割り変更が容易な8店舗を選び、昨年12月に変更を実行。今年1~4月にかけて販売の推移を確認した。すると、大人用おむつの売り上げ(金額ベースの前年同期比)は120%になった。子供用の売り上げは減ったが、子供用と大人用の合算での売り上げは109%になり、大人用は粗利益率が高いため粗利益は113%に上った。

 チェーン側にとって、成果が確認できたため、今後は売り場改装などの投資が必要な店も含め、全店で大人用おむつを拡充する方針だという。これによって、花王CMKにとっても「リリーフ」拡販のチャンスが得られた。

 棚割り変更をする時には、必ず目標を立てる。「これは当社とチェーン側の相互のコミットメント。計画通りに棚割りが徹底されなければ目標は達成できない」(東京支社チェーンストア部)

 店舗側で在庫処分を優先するなどして、決められた棚割りが徹底されないことがある。ここで役に立つのが、売り場整備の専門部隊であるKMSと店頭検証ツールの「CEX(コラボレーション・エクスチェンジ)」である。KMSのスタッフは、店舗を巡回して陳列状況の確認や商品補充などを行うほか、売り場の写真を撮影してCEXに登録する。CEXの画面上では、店舗ごとの売り場写真を一覧でき、POSの販売実績と見比べることができる。問題のある店舗が見つかれば、KMSのスタッフを派遣して売り場を改善する。こうした地道な人海戦術と情報システムの融合が、花王のカテゴリーマネジメントを支えている。