「自遊空間」ブランドの複合カフェを全国展開するランシステム。同社は社内ネットワークをインターネットVPNで構築している。本社や支店だけでなく,複合カフェやゲーム販売,衣料品店といった,同社が運営する店舗など,約200拠点が接続する大規模なネットワークである(図1)。

図1●ランシステムの社内ネットワーク
図1●ランシステムの社内ネットワーク
本社やデータ・センター,複合カフェの「自遊空間」の店舗などを含め,200拠点以上をインターネットVPNで接続している。全拠点にNTT東西のFTTHを導入し,業務データのやり取りだけでなくIP電話会議システムを用いた遠隔会議も実施している。一部の事業部ではIP非対応のデータベースが残っているため,インターネットVPN内ではL2TPトンネリングも併用している。
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 ランシステムは,2006年に埼玉県から東京・池袋に本社を移転した際に,現在のネットワーク構成とした。社内ネットには業務用データだけでなく,新たに導入した遠隔会議システムの音声トラフィックも流れている(写真1)。

写真1●遠隔会議用に導入したヤマハのIP電話会議システム
写真1●遠隔会議用に導入したヤマハのIP電話会議システム

全拠点に100MbpsのFTTHを導入

 同社の社内ネットワークの特徴は,コストを出来る限り抑えつつ,広帯域化している点。各拠点のアクセス回線は,コスト・パフォーマンスを重視して,NTT東西地域会社のFTTH(100Mビット/秒)を採用している。インターネット接続サービスはKDDIの「DION」である。

 コスト重視とはいえ,重要拠点はきちんと冗長化している。例えば,本社と,業務用の基幹サーバーが集約されているデータ・センターは,FTTHを2本引き込んで信頼性を高めている。通常は,1本を業務データの送受信用に,もう1本をインターネット接続用に使っているが,障害時は互いにバックアップする設計になっている。

 社内ネットワークで中心となっている通信機器は,ヤマハとアライドテレシスのブロードバンド・ルーターである(写真2)。インターネットVPNのメイン・ルーターにはヤマハ製品を採用し,店舗も含めてほぼ全拠点に設置している。選択に当たっては,「他のメーカーに比べて,設定や管理が容易な点などを評価した」(黒澤一秀経営戦略部情報システム課長代理)。年間の新規出店は約30店にも及ぶため,店舗にルーターを設置する際に,設定の容易さは重宝するのだという。

写真2●ランシステムが導入した通信機器  
写真2●ランシステムが導入した通信機器
インターネットVPN用に本社などにはヤマハのVPNルーター「RTX3000」を設置。一部の事業部はIP非対応のシステムを使うため,L2TPトンネリング用にアライドテレシスの「CentreCOM AR550S」を併用
 
写真3●ランシステムの沖野和彦取締役経営戦略部長(右)と黒澤一秀経営戦略部情報システム課長代理(左)
写真3●ランシステムの沖野和彦取締役経営戦略部長(右)と黒澤一秀経営戦略部情報システム課長代理(左)

 ヤマハのルーターは,使っている帯域をリアルタイムで検出したり,通信の込み具合に合わせてQoS(サービス品質)をかけられるという特徴もある。ただし,今のところこれらの機能はまだ本格的に利用していない。「拠点間の通信状況を見ている限り,帯域にはまだ余裕がある。遠隔会議の音声にもQoSをかけなくて済む」(黒澤課長代理)からだ。とはいえ,同社はこれらの機能に注目しており,拠点間のトラフィックがさらに増えた場合にどう活用できるのかなど,インターネットVPN上でのQoS実現に向けて使いこなし方の検討を重ねている。

L2TPトンネルで非IP通信に対応

 アライドテレシスのブロードバンド・ルーターを併用する理由は,同機が持つL2TPトンネリング機能を使うためである。同社には,IP非対応のデータベースを使う事業部があり,データ・センター内のIP非対応データベースと拠点側の端末とをインターネットVPN経由で通信させる必要があった。

 そのため当初は,IP以外のプロトコルが使える広域イーサネットとインターネットVPNとの併用を検討した。しかし,広域イーサネットも導入するとあまりにもコストがかかりすぎる,ということが分かった。

 そこで考え出したのが,L2TPトンネリングを使って非IP通信をインターネット経由で実行させるという方法だった。インターネットVPNのパスの中で,さらにL2TPでトンネルを張り,IP非対応のシステムも通信できるようにしたのである。

複合カフェにはルーターを2台設置

 自遊空間は24時間営業で,ネット接続は重要なサービスの一つ。ネット接続をできるだけ止めない対策をしている。具体的には,ルーターの高機能化と,店舗のルーター監視の徹底,バックアップ回線の用意──である。

 自遊空間に引き込んでいるFTTHは1本だが,ルーターは2台設置し,社内業務用とサービス提供用に分けて使っている。社内業務用にはヤマハの「RTX1100」を使うが,サービス用には処理能力が高い上位機種「RTX3000」を利用する。

 各店舗におけるサービス用のトラフィックは急激に上がっているという。「ルーターの処理能力が低いと,例えばストリーミングを利用する客が多い中に,ネット・ゲームをしている客がいると,ゲームの遅延が起こる可能性が出てくる。それは避けなければならない」(沖野和彦取締役経営戦略部長)。そのため,トラフィックの多い店舗から順次,サービス用のルーターをRTX3000に切り替えているという。

 また,店舗のトラフィックだけでなく,ルーターのCPU負荷やメモリーの状態,温度などもリアルタイムで監視している。一部の店舗には,バックアップ用にADSL回線を引き込んでおり,FTTHに不具合が起こった場合はADSLに切り替えてネット接続サービスを継続できるようにしてある。

 さらに,電話とFAX用にISDNも引いており,ネットワーク障害の際はISDNを使って遠隔からルーターに入り,障害の切り分けや復旧作業を行えるようにしている。

フレッツ網の障害で大打撃

 これほど念入りに対処している同社であるが,5月15日のNTT東日本のフレッツ網の障害では大打撃を受けた。首都圏以外の東日本エリアの店舗で一斉にネットが使えなくなったのだ。「これほどの規模で止まったことは今までなかった」(黒澤課長代理)。

 同社の監視システムで障害エリアは把握できたものの,当初は原因がフレッツ網なのかプロバイダなのか分からなかった。そのためISDN経由でネットが使えなくなった店舗のルーターをチェック。ここでPPPoEが接続不能であることを確認し,NTT東日本がリリースを出す前に,障害原因がフレッツ網であることをほぼ突き止めていた。

 今後は,バックアップを徹底するため,可能な店舗には電力系通信事業者のアクセス回線も併用した方がよいと考えている。