4月に本格稼働した新しい物流センター。産地直送品を除く、すべての商品がここから出荷される。左下に見える2台の台車は、独自に開発した「ハイテクピッキングカート」
4月に本格稼働した新しい物流センター
産地直送品を除く、すべての商品がここから出荷される。左下に見える2台の台車は、独自に開発した「ハイテクピッキングカート」
 
320席あるショップチャンネルの東京コールセンター。各席には、生放送中の通販番組を確認できるモニターが設置されている
320席あるショップチャンネルの東京コールセンター
各席には、生放送中の通販番組を確認できるモニターが設置されている
 

 テレビ通販大手のジュピターショップチャンネル(東京都中央区)が1996年の創業以来続く年間売上高の拡大に合わせて、物流センターやコールセンターの拡充を急いでいる。2007年4月には千葉県習志野市に、現在の約2倍の物量に対応できる大型の物流センターを稼働させた。

 24時間365日続く生放送のテレビ通販番組「ショップチャンネル」を運営する同社の場合、番組で紹介した特定の人気商品に顧客からの注文が殺到する傾向が強い。そのため、物流センターから出荷されていく商品の種類や大きさ、数量は毎日変動し続ける。そうした変化が激しい環境でありながら、今後注文件数が増え続けても滞りなく商品を一度に大量供給し、注文から4日前後で顧客の自宅まで届ける体制を維持する。

 一方、通販番組を見た顧客からの受注窓口であるコールセンターは物流センターよりも一足早く、2006年3月に都内に320席ある新拠点を開設済みである。これで東京と大阪にあるコールセンターの合計で、約450席を確保できた。オペレーターの在籍人数は約660人に上る。このほかに「ホームエージェント」と呼ばれる在宅のオペレーターを約50人抱えており、最大500人体制で特定の商品と特定の時間帯に集中する注文に対応する。

 ショップチャンネルは、1日の始まりである午前0時からの生放送で、24時間限定のその日のお買い得商品「ショップ・スター・バリュー」を取り上げる。このコーナーは固定ファンが多く、深夜にもかかわらず、顧客からの注文や問い合わせの電話が殺到する。午前0時過ぎからの1時間は、ショップチャンネルでの買い物に慣れたリピート客が毎日一番楽しみにしている時間帯なのだ。生放送中には商品の販売個数をリアルタイムでカウント表示しており、顧客の購買意欲をそそる。必然的に、深夜のこの時間帯はコールセンターが一番忙しくなる時間帯になる。

 ショップチャンネルは500人規模のオペレーターのほかに、「IVR(音声自動応答装置)」を使った無人の音声ガイド受注システム「タッチでショップ」も用意しており、今や電話注文の半数以上をIVRで処理している。生放送の番組内では、顧客が電話をかける際に、頭に「186」をダイヤルする発信者番号通知の利用を促しており、ダイヤル時にショップチャンネル側で顧客の電話番号を特定することで、その場で電話番号とひもづけて人気商品の在庫を引き当ててしまう。

 音声ガイド受注システムはオペレーター対応よりも電話がつながりやすく、すぐに欲しい商品を確保できる。そのため、オペレーターに電話がつながる順番を待っている間に、人気商品や自分が欲しいサイズの衣服などが売り切れてしまう確率が低くなる。IVRは顧客の手間や不満を減らしつつ、コールセンターの運営効率も上げている。

佐川急便と誤配送の撲滅に着手

 ショップチャンネルが物流センターの稼働で解決したかった課題は、物流能力を倍増させながらも、一方で誤配送の件数を低下させることだ。この4月以降、狙い通りに誤配送を昨年度の平均と比べて5分の1の水準まで低減させた。センター内には、棚から注文があった商品を選び出す作業の間違いを防止する機能が付いた独自の「ハイテクピッキングカート」を導入し、作業員のピッキングミスはほとんど発生しなくなった。

 残る誤配送の原因は、最後の配送業務での配達間違いである。産地直送の商品を除き、ショップチャンネルはすべての商品を習志野市の物流センターから出荷しているが、センターから出荷される商品を顧客の自宅まで運ぶ配送業務は佐川急便に委託している。

 そのため、ある顧客に対して別の顧客の商品を間違って配達してしまう誤配送の問題については、「佐川急便と共同で数年がかりで撲滅プロジェクトを進めてきた」(川俣良隆・執行役員ロジスティクスオペレーション部長)。品質管理室部長も兼任する川俣執行役員は、配送品質の低下を意味する誤配送を放置しておくわけにはいかなかった。誤配送は顧客の個人情報の流出につながりかねない危険性をはらむ。

 誤配送の発生率そのものは、ここ数年変化していなかったが、売上高が年率30~50%で成長を続けるショップチャンネルは、売上高の増加に比例して物流センターからの出荷数量も増え続けており、2006年度の年間出荷数量は1200万個を超えている。そのため、誤配送の発生率は例年と同じでも、物量の増加で誤配送の絶対数は増え続けていたため、新しい物流センターの稼働に合わせて配達ミスをゼロにすることを目標にしてきた。

 今井敏夫・ショップチャンネル物流センター所長は佐川急便の配送担当者と一緒にトラックに乗り込み、実際に配送現場まで同行して配達を間違う原因を探った。すると理由の1つは、商品の箱に張り付ける顧客ラベルの見にくさにあることが分かった。印字が小さく、夜間の配送では文字が見えにくくなっている。そのため、トラックの中にショップチャンネルの商品箱が複数あった場合には、間違って別の箱を渡してしまうトラブルが起きていた。そこで新しい物流センターの稼働時にはラベルのデザインを見直し、印字する仕組みを変更している。

オペレーターの育成と定着が最大の課題

 一方、コールセンターが抱える課題は、質の高いオペレーターの育成と定着である。そもそもテレビ通販の顧客はケーブルテレビやデジタル放送などを視聴できる比較的裕福な家庭の主婦層が中心だ。購入のリピート率も高く、「オペレーターの対応についても要求レベルが高い」(荒井貴弘・執行役員カスタマーケアゼネラルマネージャー)。ショップチャンネルは新人のオペレーターがすぐに電話対応できるようなコールセンターのシステム環境を整えておきながらも、あえて2カ月間もの教育期間を経てから、オペレーターを現場で独り立ちさせることにしている。

 しかも、新人オペレーターに対応させる顧客は、コールセンターのシステムであらかじめ選別する。初めて買い物をする顧客は手続きや質問が多く、リピート客の4倍ほど対応に時間がかかる。それだけにオペレーターも新規顧客の対応には覚えるべき項目が多い。そこで新人オペレーターには既にシステムに顧客情報が登録されている全体の90%を占めるリピート客の電話だけをつなぎ、決まり切った最小限のやり取りだけを確実にこなしてもらう。初めて買い物する顧客の対応は、ベテランのオペレーターが当たる。ショップチャンネルの第一印象を損なうわけにはいかない。

 ベテランのオペレーターに対しては、モチベーションアップによる仕事への定着が欠かせない。ショップチャンネルはオペレーターの通話内容を記録する「ロギングシステム」を使ってオペレーターを監視するだけでなく、本人評価にも使っている。2006年6月からはロギングシステムでオペレーターの「対話コンテスト」を実施しており、オペレーターは自分の対話内容を会社側に積極的に聞いてもらうことで、自分の働き具合を積極的にアピールできる。毎回30~50人がコンテストに応募するという。

 さらにベテランのオペレーターにとって、1つのステータスシンボルともいえるのが、ホームエージェントとしての在宅勤務だ。ショップチャンネルは電話が集中する午前0~2時に自宅にいるベテランのオペレーターをスポット活用することで注文のピークを乗り越えている。一般に在宅オペレーターというと、自宅だけで働く先任者というイメージがあるが、ショップチャンネルは原則として、ホームエージェントをコールセンターとの兼務にしている。「普段からコールセンターで一緒に働くベテランのオペレーターだからこそ、セキュリティーの確保が欠かせない在宅での電話対応を安心して任せられる」(荒井執行役員)。