JR東日本の駅にあるコンビニエンスストア「NEWDAYS」
JR東日本の駅にあるコンビニエンスストア「NEWDAYS」 [画像のクリックで拡大表示]

 この夏、東日本旅客鉄道(JR東日本)の駅の中にある売店「KIOSK(キオスク)」やコンビニエンスストア「NEWDAYS(ニューデイズ)」において、JR東日本の電子マネー「Suica(スイカ)」での決済利用率が約20%に達した。KIOSKとNEWDAYSを運営するJR東日本リテールネット(東京都新宿区)は、2006年9月までにほぼ全店にSuica対応POS(販売時点情報管理)レジの配備を終えており、この1年で顧客のSuica利用率はほぼ倍増した格好だ。今後は、この割合がますます上昇していくものと考えられる。

 実は、昨年9月にKIOSKとNEWDAYSの全店にSuica対応POSレジの導入を完了してから、2007年夏までのこの1年間は、JR東日本リテールネットにとって、ビジネスモデルが大きく変わる激動の時期だった。それまでのKIOSK主体の駅売店ビジネスを、NEWDAYS主体の駅コンビニビジネスに切り替えるタイミングと重なったからだ。

 2007年度はNEWDAYSの売上高が初めてKIOSKの売上高を上回ることが見込まれており、同社の主力事業はコンビニ運営へと移る。7月1日に創立20周年を迎えた同社は、社名を従来の東日本キヨスクからJR東日本リテールネットに変更。社名からキヨスクの文字を外しており、新たなスタートを切ったばかりだ。


長年の懸案事項だったKIOSKのPOSレジ導入

 JR東日本リテールネットのKIOSK事業は年々、売上高が下降している。2001年度に1112億円あった売上高は2006年度には739億円までダウン。KIOSKの中心顧客である中高年の男性サラリーマンが、団塊世代の引退とともに減少していることが大きかった。

 そうした顧客の減少と並行して、KIOSKの担い手であるベテラン販売員の後継者探しも難しくなっていた。400~500種類ある商品とその価格をすべて暗記し、合計金額を頭で素早く計算して、顧客にお釣りを手渡すベテラン販売員の「職人芸」を、新しく入る若手販売員が受け継げないのだ。そこで「暗算」が必要なくなるPOSレジの導入をJR東日本リテールネットは長年検討してきたが、販売スピードの面ではPOSレジは職人芸に勝ることができず、同社はPOSレジの導入に二の足を踏んできた経緯がある。

 だが、売上高の減少と販売員確保の困難さに加えて、親会社であるJR東日本からのSuicaへの対応要請もあって、ようやくJR東日本リテールネットはKIOSKへのPOSレジ全店導入を決断した。結果的に、この判断が店舗でのSuica利用率を短期間で約20%まで押し上げた。しかも、Suicaでの決済は販売員の会計業務の負荷を軽減させることにもなった。山本信也・経営企画部長は、「POSレジは会計スピードでは職人芸の手売りに劣るものの、暗算をしなくてもいい分、販売員に余裕ができ、顧客の顔を見て笑顔であいさつするといった接客の基本をもう一度見直すいいきっかけができた。POSデータの分析で死に筋商品の排除も進み、売れ筋商品のボリューム増加にもつながり出した」と話す。

 だが、昨秋から今春まではビジネスモデルの変革に伴う現場の混乱から苦難の連続でもあった。昨年9月にKIOSKへのPOSレジ導入が完了すると、JR東日本リテールネットは販売員の世代交代と人件費の圧縮を促すため、ベテラン販売員に希望退職を募った。すると、予想を超える約800人もの希望退職者が出てしまい、その後釜を埋める新たな若い販売員「Fスタッフ」の採用が追いつかなくなった。結果、営業を継続できずにシャッターを下ろしたままになるKIOSKが続出し、「お客様にはたいへんご迷惑をおかけした」(山本部長)。

 何とかFスタッフを集めようと、JR東日本リテールネットはこの7月からは、人材募集広告で「暗算不要」を大きく掲げたほどだ。これが奏功し、「8月までには営業体制が整い、営業時間の限定なども含めて、ほぼ全店で営業を再開できた」。この間、数十カ所のKIOSKは自動販売機タイプの無人店舗に切り替えるなどの対応もとっている。

 結果、KIOSKの店舗数は8月1日時点で682店にまで減少。2001年度には1106店あったことを考えると、店舗数はこの6年でほぼ半減したことになる。ベテラン販売員の職人芸である名物の手売りも、JR東日本の駅ではもうお目にかかれない。

 JR東日本リテールネットは社内に残った約220人のベテラン販売員を、複数のKIOSKを束ねて後身の販売員を育てる「ブロックマネージャー」に任命し、店舗の後方支援に当たらせている。2007年度下期は、このブロックマネージャー制度の定着が大きな課題になっている。


KIOSKの減少分をNEWDAYSが吸収して躍進

 その一方で、駅コンビニ「NEWDAYS」は好調だ。売上高と店舗数は伸び続けており、2001年度の258店から、この8月で359店まで拡大した。当面の目標は400店体制の早期確立である。最近は駅の外にも店舗を開店し始めている。中高年男性の利用が中心だったKIOSKに対し、NEWDAYSはコンビニでの買い物に慣れた若者や女性客の比率が圧倒的に高い。KIOSKの閉店で、顧客が自然にNEWDAYSに流れているのも確かだ。

 1日に約1600万人が利用するJR東日本エリア内の駅立地という好条件から、NEWDAYS全店の平均日販(1店舗当たりの1日の売上高)は約60万円と、コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンに肉薄する。駅内立地という特性から、単価が高い「お土産物」の販売比率が通常のコンビニよりも圧倒的に高いNEWDAYSの場合、全店で最高の日販を誇るJR東京駅内にある「東京八重洲南口店」では、この8月のお盆休みの日販が700万円を超えた日まであった。この店舗は通常でも日販が300万~400万円あり、驚異的な販売力を持つ。ほかにもNEWDAYSには、日販が200万円を超える店舗が複数存在する。日販が100万円を超えれば、超優良店として称えられる街中の通常のコンビニと比べても、駅中の販売パワーは桁外れに大きい。

 実際、山本部長は「NEWDAYSの販売ポテンシャルはまだまだある」と自信を見せる。というのも、これまでの反省として、「駅中という好立地であったがために(放っておいても売れるため)、商品陳列や商品開発の面で通常のコンビニよりも真剣さが足りなかったのは事実だ。今後は店舗を巡回指導するスーパーバイザーの育成や、POSデータの分析による品ぞろえの見直しと欠品率の低下に力を入れていく」(山本部長)。

 NEWDAYSはKIOSKより一足早く、2004年にPOSレジをはじめとする店舗と本部を結ぶ基幹システム「KIOP21システム」の配備を終えている。だが、「POSデータの活用はまだまだこれからという段階。データに基づく発注・陳列の見直しで、まだまだ欠品が目立つNEWDAYSの商品棚を変えていく」(同)。これを実現できれば、NEWDAYSの平均日販が最大手のセブン-イレブンを超えて、業界トップに躍り出る日も近い。