「ピピッとコンロ +do」の商品開発を担当した、リビングマーケティング部商品企画チームの青柳恵子氏
「ピピッとコンロ +do」の商品開発を担当した、リビングマーケティング部商品企画チームの青柳恵子氏
[画像のクリックで拡大表示]

 東京ガスが2006年10月下旬に発売した家庭用ガスコンロ「ピピッとコンロ」シリーズの最上位機種である「+do」(プラスドゥー)が静かなヒットとなっている。初年度1000台という目標を達成した模様だ。背景には1000人を対象にして行った綿密なサイコグラフィック(心理学的)属性の調査があった。

 ピピッとコンロは2002年3月から発売しているが、近年IH(電磁誘導加熱)クッキングヒーターとの競争は激しくなるばかりだ。対IHのエースとしての任務を負う+doは従来製品とは異なるマーケティングが取られた。リビングマーケティング部商品企画チームの青柳恵子氏は「従来は顧客をセグメントごとに明確に分けてはいなかった。満足度調査は行っていたが、機能や価格に対するものだった。技術的に優れた製品を作り、その性能をアピールするというやり方できた」と話す。そこで、+doの開発時では顧客のライフスタイルを意識した商品の開発と販促に取り組んだという。

 新しいマーケティングの方向性を模索する東京ガスが協力を求めたのは、マーケティングやデザイン分野でのコンサルティングに定評があるウォータースタジオ(東京・渋谷)。「エモーショナル・プログラム」と呼ばれる、あらゆる商品やサービス、そして顧客の価値観を「保守/革新」と「感性年齢」という2軸でマッピングする手法を持つ。同プログラムを用いて青柳氏らは新製品のイメージ作りに取り組んだ。

 まず行ったのが、ウォータースタジオの消費者モニターへの調査だ。調査時期は2005年3月16日~21日。「住宅の自己所有者で過去5年以内に新築・新規購入・リフォームのいずれかの経験者と今後2年以内に新築・新規購入・リフォームの予定のある人」もしくは「2~3日に1回以上料理をする」25~64歳までの1000人が対象だった。そのうち3割が男性で7割が女性。最終有効回答数は937件だった。

 そのアンケート結果を基に顧客層を6つのクラスターに分類したところ「現状満足のマイペース派」が最も大きいと把握できた。しかし、東京ガスはあえて2番手の「料理が好きで道具にこだわる人」という層を狙うことにした。後者の購買行動が前者に影響を与えるという可能性が高いと見たからだ。後者を攻めれば、前者も取り込めるが、その逆は考えにくいと判断したのである。デザインや販促は、こだわり層を意識したものに統一した。その結果、都市部に住みIH層に流れてしまう顧客をつかむことができたようだ。発売から10カ月ほどで初年度の1000台という目標を達成した。

 価値観や好きなブランドといった心理的な属性で顧客を分類するという取り組みは、東京ガスにとって新鮮なものであった。IHがこれほどの知名度を持つまでは、新機能を訴求することで売り上げにつながってきたからだ。「ガスコンロならではの機能を追及しながらも、ターゲット層を意識した製品を作ることができた」と青柳氏も開発を振り返る。ガス対IHの戦いの炎は熱いものになりそうだ。