食品大手の森永乳業は、災害を想定した事業継続計画(BCP)の訓練を行い、見直しを繰り返している。昨年は3回の訓練を実施。新たに設置したバックアップ・システムを使った業務の継続を試した。この5月には今年最初の訓練を行い「実効性の高いBCP」を目指す。

 「実際に訓練をしてみると、机上の計画通りにはいかないことがよく分かる。訓練を繰り返さないと、いざというときにBCPをきちんと実行できない」――。森永乳業の小林昭情報システム部長は、訓練の重要性を強調する。

  表●森永乳業が定めた、各業務の目標復旧時間
重要度は製品供給に対するもの
 同社は乳製品のように鮮度管理が厳しい製品や、粉ミルクや流動食など災害時にも供給責任がある製品を扱っている。BCPではこうした製品の受注と供給のプロセスを確保することを最重要と定義。Aランクのシステムは「被災から3時間以内に再稼働させる」など、情報システムの運用に優先順位をつけている()。「これまでのシステム障害の経験から、製品供給を継続する上で3時間がギリギリの線と判断した」(小林部長)からだ。

 3時間復旧を実現するため、2005年10月には埼玉県にバックアップ・センターを新設。神奈川県にあるメインセンターからデータをリアルタイムで送っている。さらに、その実効性を確かめる訓練を、昨年は3月と4月、10月の3回実施した。従来は東海地震を想定した局地的な災害対策だったのを、全社に拡大したのである。すると、様々な課題があぶり出された。

 一つは、バックアップに切り替えると判断するまでの時間。4月の訓練では2時間と、「想定以上の時間を要してしまった」(小林部長)。担当者が情報を収集して上層部へと連絡していくが、上に行くほど情報が集中して電話がかかりにくいといった点が落とし穴だった。その後、「掲示板や電子メールなどの手段も使うよう改めた」(情報システム部の横尾浩司課長代理)。

 情報システム部以外の現場のユーザーに、普段と異なるシステムを使ってもらうことの難しさも実感した。災害時には事業所間の連絡用に、バックアップのメール・システムと掲示板が起動する。使い方はWebブラウザで「bmail」とURLを入力するだけ。しかし「現場からは5文字のアルファベットを入れるだけでも難しいとの声が上がってきた」(小林部長)。

 バッチ処理が実行できない可能性も判明した。オープン系を含めたシステム全体のバッチ処理のスケジュールは、メインフレームが管理している。ところが、メインフレームは3日後までに回復させる対象のため、3時間で復旧させる最重要サーバーのバッチを処理できない可能性があった。このリスクを回避するため、オープン系のサーバーにバッチ処理の機能を実装した。

 課題は、すべてをクリアするわけではない。例えば、「被災状況によってバックアップ・サーバーへの書き込みが間に合わないデータが数十~数百件出てくる」(横尾課長代理)という可能性が明らかになったが、対処していない。完ぺきな整合性を保つにはばく大なコストがかかる一方、この程度のデータ量なら製品を受注して出荷する事業継続は可能と判断したからだ。

 同社の情報システム予算は年間約26億円。バックアップ・センターのコストは、場所や機器の利用料金、保守費用などで全体の3%程度に抑えている。「あくまでも“保険”として妥当なコスト」(小林部長)との考えだ。BCPの訓練に力を入れるのは、費用対効果を最大限にするため。昨年始めた全社のシステム訓練は今後、最低年2回の定例とした。今年は5月に1回目の訓練を予定している。