石油ファンヒーター事故を契機に全社のリスクマネジメント体制を見直した松下電器産業。その一環で現在は、非常時の業務態勢である事業継続計画(BCP)の策定を急ピッチで進めている。2009年度に全事業ドメインへの展開を完了する予定だ。

 同社グループは全世界で33万人もの従業員を抱え、幅広い事業を展開している。各事業会社やカンパニーが属している市場は異なるため、「一律のBCPを策定し、適用を強いることは難しい」(宮崎勇気リスクマネジメント室長)。一方で、グループとしての整合性を保つことも不可欠だ。そこで同社は、全社の方針を個別に落とし込み、それを全社方針にフィードバックする方法で最適化を図っている()。

図●松下電器産業はグループ各社がBCP(事業継続計画)を策定する際のガイドラインを作った

 BCPの策定は、ドメインと呼ぶ事業単位で個別に行う。ドメインは、オーディオ・ビジュアルの「AVC」や携帯電話の「移動通信」、家電の「家電・電化・住宅設備・健康システム」など14ある。各ドメインがBCPを策定する際には、社長直轄の本社組織「グローバル&グループ(G&G)リスクマネジメント委員会」が昨年5月に定めた「松下電器グループBCPガイドライン」に従う。従うといってもガイドラインはあくまでも指針で、「プロセスを示したもの」(宮崎室長)だ。

 プロセスは大きく6つのステップからなる。まず、地震など各ドメインが想定する災害を絞り込み、次に事業継続の対象とする重要サービスや商品を決める。その際に従うべき指針もガイドラインに示してある。「規模は『100億円以上の被害』、頻度は『年に1回以上起こる』に該当するリスクを重点項目として取り組む」や、「該当するリスクには地震、知的財産権侵害、価格下落など7つあるが、最初に地震を対象とする」などだ。

 その後、製品やサービス提供を阻害する要因を洗い出し、どの程度の時間で復旧させるかなどを決める。こうして策定したBCPに基づいて訓練を実施。その課題を反映して正式なBCPとして文書化する。

 市場が異なるとはいえ、ドメイン間で連携すべき業務もある。そこで各ドメインが策定したBCPをベースに複数ドメインの連携を検討する。そうして出来上がったBCPの情報は、G&Gリスクマネジメント委員会が吸い上げて集約。品質や会計といった「職能」ごとに共通かつ緊急性の高いリスクを洗い出し、共通の項目を抽出して各ドメインに伝えるとともに、必要に応じてガイドラインへ反映する。

 BCPを実行に移すにあたって重要なインフラとなるIT基盤は、現在、整備中だ。松下電器は2000年からシステムの開発と運用をグループで集約しているが、これまではBCPメニューに関する運用メニューが明確でなかった。この点も今後、整備していく。具体的には、復旧時間や復元データの範囲などをランク付けして用意。各ドメインが支払うコストを提示する。

 ガイドラインに基づいたBCPが策定済みなのは、移動通信ドメインのパナソニックモバイルコミュニケーションズ、カーエレクトロニクス・ドメインのパナソニック オートモーティブシステムズ社など4社。07年度には7ドメインを加え、09年度には14の全ドメインへの展開を完了する。