戸田建設は今年度中に、全国100カ所の建設現場などに緊急地震速報システムを導入する。建設業界初の試みだ。システム構築から2カ月で23カ所に設置できたのは、現場ごとの到着時間などを解析するサーバーをセンター集中型にし、運用負荷を減らしたためである。

 6月7日午後5時過ぎ、戸田建設建設企画部営業情報課の佐藤康樹主任は「現場地震速報ユレキテル」の管理画面を見て胸をなで下ろした。大分県で発生した震度4の地震が、近くの建設現場にさほど影響していないことが確認できたからだ。ユレキテルは、震度4以上が予想される建設現場に対して、“揺れ”が到着する前にサイレンや回転灯で警報を発するシステム。今年4月に構築し、この2カ月で13カ所の建設現場と10カ所の本社/支店に導入した。年度内には全国100カ所まで広げる計画である。

 仕組みはこうだ。地震波には2通りあり、先に伝わるP波(初期微動、秒速6~7km)をキャッチして現場に伝えれば、大きな被害をもたらすS波(主要動、同3~4km)が来る前に危険回避行動をとれる。P波の情報として、気象庁が配信している「緊急地震速報」を活用。そこで得られる「発生時刻」「震源の推定位置」「マグニチュードの推定値」と、全国に散らばる建設現場の住所データおよび地盤の状態を付き合わせることで、各現場の予想震度とS波の到着予想時間を求める。予想震度が4以上の現場に対して、到着時間とともに警報を発する()。

図●地震発生時に“揺れ”の到着予想時間を表示する「現場地震速報ユレキテル」
建設現場では回転灯やサイレンを併用して地震を周知する。6月14日時点で全国23カ所の建設現場(本社/支店を含む)に導入済み。07年度中に100カ所に展開予定

 実は建設業界は、他の業界と比べて地震速報データの活用が進んでいる。だが、全国規模で水平展開する取り組みは、「大手ゼネコンとしては初」(佐藤主任)だ。各社の全国展開を阻んでいた理由の一つは、建設現場における運用負荷の高さである。

 前述したように地震速報データは震源地の情報のみであり、各現場へのS波到着時間や予想震度といった影響は、自分たちで計算する必要がある。「従来は、建設現場ごとに解析用パソコンを設置する方式が主流だった」(佐藤主任)が、現場にはパソコンを管理できる人が少ない。そこで戸田建設は、2つの方策を採った。一つは、地震速報データの解析をデータセンターで一括処理し、現場には解析結果のみを送ること。もう一つは、IPアドレスや警報のしきい値といった端末への設定情報をあらかじめ端末に入力しておき、現場では、WAN回線に接続するだけにしておくことである。これらにより、現場に専任の管理者を不要とした。

 集中解析を行う「現場地震速報サーバー」は、約600万円かけて伊藤忠テクノソリューションズと共同開発。端末は、パトライト製の「緊急地震速報表示端末」をベースに、接続後に現場地震速報サーバーと通信して動作をテストする機能を別途組み込んだ。導入費用は、端末および複数個のスピーカー/回転灯を合わせて1現場当たり約50万円である。